赤い着色料の原料、虫からイモに転換?

2013.10.03
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コチニールカイガラムシ(写真はつぶれた状態)から取れる赤色色素は、多くの製品に使用されている。

Photograph by Rebecca Hale, National Geographic
 昆虫と植物なら、どちらを食べたいだろうか? 後者と答えた人に朗報だ。昆虫を砕いて作る赤色の食用色素で、現在広く用いられているコチニール色素に代わるものとして、より良質な野菜由来の色素の開発が進んでいる。中でも有力な候補が、サツマイモの1品種であるムラサキイモだ。 ムラサキイモを使えば、明るいピンクから深い紫まで、幅広い色が作れると、テキサスA&M大学の食品化学准教授であるスティーブン・タルコット(Stephen Talcott)氏は述べる。

 近年、天然着色料の需要が高まっている。合成着色料は、アレルギーや子どもの多動などの行動障害との関連性が指摘され、消費者が避けるようになったためだ。

 ムラサキイモに含まれる色素アントシアニンは、「その優れた色と安定性から、着色料として最も望ましい色素の1つ」だと、タルコット氏は9月にインディアナポリスで行われたアメリカ化学会(ACS)の年次会合で発表した。

 ムラサキイモから作られた着色料は、既に市場に出回っているが、ムラサキイモから色素を抽出することは難しく効率が悪いうえ、色の大半は処理過程の酸化により失われる場合があるとタルコット氏は述べる。

「我々は目下、アントシアニンの色と収量を劇的に向上させる抽出および処理方法の開発に取り組んでいる。近い将来、ほとんどの食品が“天然色素”で着色されるようになることを望んでいる」。

 紫色のニンジンやブドウからも、食品に使える赤色の色素が取れるが、ブドウに含まれるタンニンはかすかな渋味をもたらす。

◆コチニール色素の歴史

 代表的な天然着色料の1つが、コチニール色素だ。カーマイン、カルミン酸、ナチュラルレッド4などとも呼ばれるこの色素は、コチニールカイガラムシを原料とする。カイガラムシは、植物に寄生し、その樹液を吸って生きる小さな昆虫で、この種は特にサボテンを餌とする。

「カイガラムシは植物にできた吹き出物のようなもの」と、昆虫学者で「バグ・ガールズ・ブログ」(Bug Girl's Blog)を運営するグウェン・ピアソン(Gwen Pearson)氏は述べる。「翅はなく、目に見える肢もない。ただの液体の詰まった小さな袋のようなものなので、身を守るのに強力な手立てが必要だ」。

 コチニールカイガラムシの場合、その手立てはカルミン酸という深紅色の物質であり、アリなどの捕食者にとっては不快な味がする。しかし、人間はこれを何世紀も前から染料に用いてきた。アステカの人々は、薬や化粧品、織物、さらにはタマルという料理にも利用していたと、コチニール色素の歴史に関する書籍『完璧な赤:「欲望の色」をめぐる帝国と密偵と大航海の物語』の著者であるエイミー・バトラー・グリーンフィールド(Amy Butler Greenfield)氏は述べる。

「コチニール色素は最も鮮やかな天然の赤色色素であり、メキシコ南部の人々や文化が(スペインの)征服による破壊を生き延びるのに役立った」と、グリーンフィールド氏は述べる。「現在も多くの貧しい地域の農民たちにとって、重要な輸出品となっている。ペルーやカナリア諸島が主な産地だ」。

◆消費者の嫌悪

 コチニール色素は、アメリカでは何十年も前から食品や医薬品に用いられてきたが、成分表示では「天然着色料」や「着色料添加」などの大まかな表現で隠されることが多かった。アメリカ食品医薬品局(FDA)は2009年に規則を修正し、製造者はコチニール色素およびカーマインの使用を明記しなければならなくなった。

 それ以来、コチニール色素の原料に関する認知度が上がったことで、一部の消費者はコチニール色素に嫌悪感を抱き、代替色素を探すよう食品業界に圧力をかけている。

 消費者団体「公益科学センター(CSPI)」は先ごろ、ヨーグルトの製造業者ダノンに対して、一部ヨーグルト製品へのカーマイン使用をやめるよう呼びかけを行った。

「昆虫を食する人々には何の反感もないが、私がストロベリー・ヨーグルトを買うときは、昆虫由来の赤い色素ではなく、ヨーグルトとストロベリーを求めて買っている」と、CSPIのエグゼクティブ・ディレクターであるマイケル・F・ジェイコブセン(Michael F. Jacobsen)氏は、プレスリリースの中で述べている。

 CSPIによると、これは単に嫌悪感だけの問題ではないという。コチニール色素はまれに生命に関わるアレルギー反応を引き起こすと、ミシガン大学のアレルギー専門医ジェームズ・ボールドウィン(James Baldwin)氏は2007年の研究で報告している。

 しかし、昆虫学者のピアソン氏は、なぜこれが大騒ぎになるのか理解できないと話す。「たしかに表示はするべきだと思うが、CSPIが引用する研究で取り上げているアレルギー反応は、10年間で3件だ。現在のアメリカの食品安全には、ほかにもっと大きな問題が存在する。どうしてこのことばかり気にするのか」。

 しかも、そうと知っていようがいまいが、我々はおそらく普段から昆虫を口にしているとピアソン氏は述べる。キャンディや野菜果物のコーティングに使われているシェラックは、また別の種類のカイガラムシが分泌する蝋質の物質が原料だ。FDAも、チョコレート、コーヒー、香辛料、ナツメヤシ、イチジク、その他いくつかの食品に微量の「昆虫の汚物」が含まれることは許容範囲としている。

 ということはつまり、ムラサキイモにも昆虫が含まれている可能性があるのだろうか?

「もちろん」と、ピアソン氏は言う。「生物学において、ニッチ(生態的地位)が空席であることなどありえない。食べられるものが存在すれば、必ずどこかで何かがそれを食べる」。

Photograph by Rebecca Hale, National Geographic

文=Amanda Fiegl

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