ギアナ高地、テプイの不思議な生態系

2013.10.01
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南アメリカ、ギアナ高地に生息するコイシガエル(学名:Oreophrynella nigra)。テプイ(卓状台地)には、個性的な生物が数多く生息している。

Photograph by Joe Riis, National Geographic
 南アメリカのベネズエラ南部から、隣接するガイアナやブラジルにまたがるギアナ高地には、数多くのテーブルマウンテン(卓状台地)が熱帯雨林からほぼ垂直に切り立つ不思議な地形が広がっている。古くから知られる地上3000メートルの台地は、コナン・ドイルの小説『失われた世界』をはじめ、近年では『カールじいさんの空飛ぶ家』や『アバター』といった映画にもインスピレーションを与えており、多くの研究者たちも魅了してきた。現地の言葉で「テプイ」と呼ぶ台地の上にはどのような世界が広がっているのか、最新の研究でその姿が徐々に明らかになり始めた。 アメリカ、フロリダ州タラハシーにあるフロリダ州立大学の爬虫両生類学者で、テプイの生態系を専門とするブルース・ミーンズ(Bruce Means)氏は次のように語る。

「テプイは16億~18億年前の岩石で形成されており、4000万~5000万年前にギアナ高地の一部として隆起した後、侵食作用によって周辺が削りとられた。“孤立した台地の頂上では、動植物が当時の様子をとどめているのではないか”と想像するのは自然の成り行きだった」。

 やがて、ヘリコプターで直行できる時代がやって来る。「何度も実地調査を重ねた結果、確かに“生きた化石”と呼べる生物にも出会ったが、話はそう単純ではなかった」。

◆コイシガエルの謎

 周囲から隔絶した頂上の生物の独自の進化を正確に測定するため、ミーンズ氏の研究チームはコイシガエル(学名:Oreophrynella nigra)に焦点を絞った。非常にカラフルな小型のカエルで、体中にイボがある。「ほかのカエルから分化した時期は、南アメリカとアフリカが古代の超大陸ゴンドワナから分裂する6億年前と推定できる」とミーンズ氏は説明。

「木登りに適応した後足は、手のように動かすことができる。非常に特殊な例だ」。

 ミーンズ氏の研究チームは、過去何年にもわたりガイアナのテプイを訪れ、各地のコイシガエルを収集。「DNA分析の結果、各テプイのカエルにそれほどの違いはなかった。大昔に完全に分断されていた場合、その差はもっと大きくなるはずだ」。

 したがってテプイと地上の間の遺伝子流動は、従来の想定よりも大きかったことになる。頂上と地上付近のコイシガエルを比較しても、分化はわずか数万年ほど前にすぎないという。

 ミーンズ氏は、「小さなカエルが、高さ数千メートルのテプイをよじ登っていった可能性がある」と推測する。

「逆に、頂上から数千メートル下に落ちたのかもしれない。軽い体なので、茂みの上であれば死なずに済んだだろう」。

 もちろん、調査で判明したのは類似性だけではなく、まったく新しい発見もあった。「孵化してオタマジャクシになる種と、直接カエルになるコイシガエルなどの種をつなぐ“生きた化石”だ」。また、新種と思われるトカゲなども見つかっている。

◆多様な植物

 アメリカにあるスミソニアン研究所国立自然史博物館の植物学者で、ガイアナとベネズエラのテプイを専門とするケネス・ワーダック(Kenneth Wurdack)氏は、「植物の生態系も似た状況だ」と語る。

「“孤立した古代種がそのまま残っている”といった単純な話ではない。それぞれのテプイの固有種も多いが、付近のテプイと密接なつながりを示す一部の種は、海に連なる列島の生態系を想起させる」。

◆失われる「失われた世界」

 容易に人を寄せ付けないテプイだが、現在はそこに住む動植物に危機が訪れているという。「特に、近年の気候変動の影響が大きい」とワーダック氏は語る。「あらゆる生物は、それぞれの環境に適応するよう進化してきた。気候が変われば、それに応じて高所や低所に移動することになるが、最後には行き場を失う」。

 フロリダ州立大学のミーンズ氏は、地域開発による影響を問題視している。「ベネズエラでは国立公園として保護下にある範囲が広いが、ガイアナではほとんど放置されている」。

 テプイの金やダイヤモンドを狙う連中がいる。「どんどん穴を掘って、水圧で熱帯雨林をなぎ払う。また、金を精錬する際に水銀を使うため、水銀汚染が深刻化する一方だ」とミーンズ氏は嘆く。

「唯一無二の自然が残るテプイも、いずれ消失してしまうかもしれない」。

Photograph by Joe Riis, National Geographic

文=Brian Clark Howard

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