エチオピアがナイル川に建設を計画している「グランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダム」が、エジプト との間に“水論争”を引き起こしている。

Photograph by Cameron Davidson, Corbis
「エチオピアは我々を殺す気だ」と、エジプト、カイロの悪名高い渋滞をすり抜けながら、タクシー運転手のアハメド・ホッサムさんは言う。「エチオピアがダムを建設したら、ナイル川は干上がる。ナイルが干上がったら、エジプトは終わりだ」。 総工費47億ドル、全長1.7キロに及ぶ「グランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダム」(Grand Ethiopian Renaissance Dam)の建設計画は、多くの激しい反対に遭っている。しかし、青ナイル川をせき止めるダム計画 に大半のエジプト人が抱く不安や怒りは、中でもひときわ激しいものがある。

 エチオピアの水力発電プロジェクトは、エジプトの“歴史的権利”を侵害しているという。すなわち、エジプ トがナイル川の水の約4分の3を利用することを取り決めた1959年の協定に違反しており、また、ほかにほとんど 水源をもたないエジプトの存亡を脅かすというのがエジプトの主張だ。

 対するエチオピアにとって、ダム建設は国家の威信をかけた事業であり、1980~90年代に同国を襲った大飢饉 からの再生の象徴だ。

◆水を巡る激しい対立

 エチオピアは、ナイル川下流に位置するエジプトとスーダンがダムを懸念する必要はないと主張している。今 回の計画は、上流9カ国がほとんど水を使えない従来の不公平な水利用協定を是正するものに過ぎないというの だ。

 しかし、このような地域力学の変化は、エジプトにとって承服しがたいものだ。何十年もの間、エジプトは周 辺地域への影響力を行使して、貧しい上流の近隣国によるダム建設計画を阻止してきた。過去には、世界銀行の ような国際機関が水力発電事業に出資したこともあるが、このような論争の火種に関わるのを嫌って手を引き、 エジプトに事実上の拒否権を与えてきた。

 しかしここ数年、「アラブの春」の余波で経済および政治不安が続き、国力が低下している今のエジプトに は、再生したエチオピアに対抗する余裕はない。

「エジプトの真水の98%は国外から供給されており、エジプトが有する影響力はきわめて小さい」と、カイロに あるシグネット・インスティテュートの政治経済アナリストであるアンガス・ブレア(Angus Blair)氏は述べ る。「問題の答えは、近隣国との協力にある」。

 しかし今のところ、エジプトはおおむね好戦的な態度を貫いている。国営および民間メディアは、エジプト国 民のエチオピアに対する激しい反感を煽っており、政治家たちの発言もそれに劣らず攻撃的だ。 「ダム建設は宣戦布告に等しい」と、2013年6月にヌール党幹部は述べ、このままダム建設を継続するなら、エ ジプトはエチオピア国内のさまざまな分離独立運動を支援してはどうかと提案した。

 また、当時のエジプト大統領ムハンマド・モルシも、7月初めに軍のクーデターによって解任される直前、 「あらゆる選択肢の可能性がある」と発言し、間接的な圧力をかけていた。

 一方、エジプトの南隣にあるスーダンは、それまでの反対姿勢から一転、ダム建設に支持を表面している。

「スーダンはダム建設が自国の利益になることを理解している」と、オックスフォード大学でアフリカ政治を教 えるハリー・バーホーベン(Harry Verhoeven)氏は述べる。「ダムができれば、スーダンが切望している安価 なエネルギーが輸入できるようになる」。

「エジプトも苦渋の決断を下すべきだ。ダムを危惧するのでなく、自分たちが伝統的に軽んじてきた地域に接近 する機会ととらえるべきだ」。

 エジプトのホスニ・ムバラク元大統領は、アフリカの近隣諸国を軽視してきたとして非難されることが多く、 エジプトはアラブ世界を重視し続けてきたことの代償を今になって支払わされていると見る向きもある。

◆水は確保されるのか

 それでも、エジプトの懸念は決して的外れなものではない。エジプトの人口は2050年には現在の倍近い1億 5000万人に増える見込みで、水の需要もそれだけ急増するのに、ダムができれば供給量は制限される。ダムがエ ジプトに損害を与えるというのは「非現実的な考え」だとエチオピアは主張するが、少なくとも(ダムが満水に なるまでの)数年間は、エジプトとスーダンに流れる水の量が減るのは確実だ。

 エジプトは、エチオピアのダムに水がたまることで、自国のナセル湖の貯水量が減少する(ひいては、エジプ トのアスワンにある巨大な水力発電所の発電力が低下する)ことを懸念している。

「エチオピアがダムを建設すれば、アスワン・ハイ・ダムの発電量は40%近く低下するだろう」と、カイロ大学 の農学教授ナデル・ヌーレディン(Nader Noureddin)氏は述べる。

 エチオピア当局によると、ダムは現在20%完成しており、2017年には完成予定だという。グランド・エチオピ アン・ルネッサンス・ダムは、どうやらこのまま建設されそうだ。しかし建設後のことは、エジプトが環境の変 化にいかに適応するかにかかっている。

「エジプトは世界が変わっていることに気付くべきだ」とバーホーベン氏は述べている。「これは問題にするべ き事柄ではない」。

Photograph by Cameron Davidson, Corbis

文=Peter Schwartzstein in Cairo