海洋生物に2つの体内時計、人間も?

2013.09.27
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2つの体内時計を持つことが判明した海生環形動物の一種(学名:Platynereis dumerilii)の頭部から胴体上部。

Photograph by Douglas P. Wilson/Frank Lane Picture Agency/Corbis
 菌類から家畜、人間に至る幅広い生物に、体内時計に制御された1日単位のサイクルがあることがわかっている。こうした体内時計は、睡眠や休憩を取るべきとき、あるいは目覚めるべきときなどを伝える役目を担う。 しかし、一部の動物では、このリズムに2つ以上の体内時計が関与していることが、新たな研究で判明した。さらには人間も、こうした時計を持っている可能性があるという。

 多くの海生動物の生態は、24時間周期ではない複数のサイクルと密接に結びついている。潮の満ち引きの周期は、これらの生物の摂食や行動パターンに1日の中で何度も影響を与える。さらに1カ月周期のサイクルもあり、生殖行動が30日前後の間隔に従う場合もある。

 オーストリア、ウィーン大学所属の分子神経生物学者クリスティン・テスマール・ライブレ(Kristin Tessmar-Raible)氏によれば、古代ギリシャ以降、さまざまな文明の漁師が、一部のムール貝やウニの大きさや重さが月の満ち欠けの周期に従って増減することに気づいていたという。

 20世紀以降、多様な海生生物に同様のサイクルがあることが、科学者によって確認されている。こうしたサイクルの例としては、サンゴや海虫の放卵放精の時期や、海岸沿いに生息する甲殻類の捕食行動が1日に2回のパターンに従っている、といったものが挙げられる。

 しかし行動調査だけでは、これらのサイクルを複数の体内時計が別々に制御しているのか、あるいはこれらの時計が単一の時計から派生したものなのかを突き止めるのは難しかった。

「これまでの研究を踏まえ、我々が明らかにしようとしたのはこの点だった」と、新たな研究論文の共著者であるテスマール・ライブレ氏は説明する。

 同氏の研究チームとは別に、イギリスのレスター大学所属の行動遺伝学者、チャラランボス・キリアコウ(Charalambos Kyriacou)氏が率いるグループも、異なる海生動物について、2つ以上の体内時計を持っていることを示す分子生物学的な証拠を発見した。

◆月の満ち欠けと生体サイクルの関係

 テスマール・ライブレ氏の研究チームは、海生の環形動物の一種(学名:Platynereis dumerilii)に、月の満ち欠けに対応した概月時計が存在する証拠を発見した。

 この環形動物は、新月の暗い夜に繁殖行動を行う習性があり、この種の個体群が性的に成熟する時期は、新月の時期に一致する。

 この種の性的成熟サイクルを検証し、未成熟の個体について1日サイクルの体内時計を発生させる遺伝子の発現を阻む手法により、研究チームは概月時計と概日時計がそれぞれ独立した存在であることを突き止めた。

 だが興味深いことに、話はこれで終わらなかった。概月時計が、この環形生物の概日時計に関連する遺伝子に影響を与えている可能性があることが判明したのだ。また、この種は海藻や岩の間を這いまわる習性を持つが、こうした日々の移動行動にも、概月時計が影響をおよぼしていることがわかった。

 テスマール・ライブレ氏は、概月時計をつかさどる分子の働きはいまだに謎のままで、そのためこうした現象が起きる仕組みについてはよくわからないとしている。

◆2つの体内時計

 一方、キリアコウ氏が率いる研究チームも、甲殻類の一種で、地上に生息するダンゴムシの親戚にあたる海生生物(学名:Eurydice pulchra)について、2つの体内時計を持つことを示す証拠を発見した。しかし、こちらの種で概日時計に加えて見つかったのは、概月時計ではなく、潮の満ち引きに対応するものだった。

 また、この概潮汐時計も、この種の概日時計とは独立したリズムを持っていることが判明した。

 キリアコウ氏の説明によれば、この生物は捕食行動を潮の満ち引きのサイクルに合わせており、潮が満ちているときには活発に泳ぎ回るが、引いたときには砂の中に身を隠すという。

 キリアコウ氏の研究チームは、概日時計に関係するタンパク質を抑止し、概潮汐時計のみになった場合の遊泳行動を確認した。その結果、この種が2つの独立した体内時計を持っていることが判明した。

 しかもテスマール・ライブレ氏が見つけた環形生物の体内時計とは違い、この種の2つの体内時計には、連携関係は確認できなかったという。

◆体内時計のメカニズムを探る

 キリアコウ氏とテスマール・ライブレ氏は共に、自らが研究対象にしているそれぞれの体内時計についてさらに研究を進め、分子や遺伝子レベルでの基盤を突き止めたいとしている。

 さらにテスマール・ライブレ氏は、こうした複数の体内時計が地上に住む生物、ひいては人間にも存在する可能性は高いと指摘する。「マウスの遺伝子の一部は、12時間の周期を持っている。これは概潮汐時計の周期と一致している」。

 最近発表された研究でも、人間の睡眠サイクルが月の満ち欠けに影響を受けていることを示唆するものがあった。また、別の研究では、男性においても、一部のホルモン分泌に1カ月、あるいは半月のサイクルがあることが示されている。

 なぜマウスの遺伝子には12時間周期のサイクルが刻まれているのだろうか? 人間に概月時計が必要な理由は何だろうか? こうした問題は非常に興味深く、さらに詳細に調べる価値があると、テスマール・ライブレ氏は述べている。

 テスマール・ライブレ氏らの研究は9月26日付で「Cell Reports」誌に、キリアコウ氏らの研究は同じく26日付で「Current Biology」誌に、それぞれ掲載された。

Photograph by Douglas P. Wilson/Frank Lane Picture Agency/Corbis

文=Jane J. Lee

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