“眠れる美少女”の謎が明らかに

2009.01.26
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 イタリア、シチリア島のパレルモにあるカプチン修道会の地下納骨堂に、世界一美しい遺体が安置されている。シチリアで生まれ、1920年に肺炎のため2歳で死亡したロザリア・ロンバルドという少女の遺体である。棺に入れられた彼女をガラス越しに眺めると、“眠れる美少女”という形容にふさわしく、寝息を立てているようにさえ見える。 ロザリアの遺体がどのような方法で防腐処理されたのか、これまで謎に包まれていたが、最近になってイタリアの生物人類学者ダリオ・ピオンビーノ・マスカリ氏がそれを突き止めた。

 当時ロザリアの遺体処理を担当したのは、シチリア人の剥製師であり“エンバーマー”(死体防腐処理師)であるアルフレッド・サラフィア氏だった。サラフィア氏は1933年に亡くなっているが、今回ピオンビーノ・マスカリ氏はその親族を探し当て、同氏が生前書き残した資料を調査する機会を得た。

 調査の結果、サラフィア氏が書き記した直筆のメモの中に、彼がロザリアの遺体に注入した薬品名が見つかった。その薬品は、ホルマリン、亜鉛塩、アルコール、サリチル酸、グリセリンだった。

 ホルマリンは、殺菌力を持つホルムアルデヒドの水溶液である。ホルマリンを用いた死体の防腐処理は、いまでこそ広く行われているが、それを初めて行った人物の1人がサラフィア氏である。アルコールは、湿度が極端に低い地下墓地内で、ロザリアの遺体を乾燥させミイラ化する役割を果たしたとみられる。グリセリンは逆に、遺体が極度に乾燥するのを防ぎ、サリチル酸は、菌類の繁殖を防いだと考えられる(注)。

 では亜鉛塩にはどのような効果があったのか。アメリカ・エンバーマー協会の事務局長メリッサ・ジョンソン・ウィリアムズ氏によれば、ロザリアの遺体がほぼ完璧な状態で保存されているのは、亜鉛塩に負うところが最も大きいという。というのも亜鉛には、遺体を石のように硬くする働きがあるからだ。ちなみにアメリカでは、既に死体の防腐処理に亜鉛は用いていない。

「亜鉛によって、ロザリアの体は石化している。もしロザリアを棺から出して直立させれば、支えがなくても立っていられると思う」。ウィリアムス氏はそのように話す。

 ピオンビーノ・マスカリ氏は、独力で高い技術を追求したサラフィア氏をアーティストと呼ぶ。「彼が持っていたエンバーミング技術は、現代の水準からみても最高レベルだと思う」。

 ピオンビーノ・マスカリ氏のプロジェクトは、ナショナル ジオグラフィック探査協議会の助成プログラムの支援を受けている。

注:化学薬品を用いた死体防腐処理(エンバーミング)は、土葬を基本とする欧米では葬儀の一部として広く行われており、特に北米ではほとんどの州で法制度・資格制度が整っている。

Photograph by Vincent J. Musi

文=Karen Lange

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