恒例、イグ・ノーベル賞が発表

2013.09.17
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授賞式の司会役を務めるマーク・エイブラハムズ(Marc Abrahams)氏が、イグ・ノーベル医学賞を受賞した日本の研究チームを紹介する様子。授賞式はマサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード大学で、2013年9月12日(木)に開催された。

Photograph by Winslow Townson, AP
 米国時間9月12日に2013年度のイグ・ノーベル賞が発表され、オペラが持つ延命効果、半生のトガリネズミを丸のみした場合の消化の度合い、天の川を頼りに方角を知るフンコロガシなど、にわかには信じがたい研究成果がこの賞を受賞した。 この毎年恒例のユニークな賞は、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる」実際の研究に与えられると、同賞のウェブサイトでは説明している。第23回目にあたる今年度の受賞者は、ハーバード大学のサンダーズシアターを会場に、科学誌「Annals of Improbable Research」とハーバード大学の学生グループの主催による式典で発表された。

 では、今年度の受賞者を紹介しよう。

【医学賞】オペラを聞かせると心臓移植を受けたマウスの生存期間が延びる

 心臓移植手術を受けたマウスにヴェルディのオペラ『椿姫』を聞かせると、聞かせなかったマウスよりも長く生きることが判明した。

 この研究で医学賞を受賞し、研究チームを率いて授賞式にも出席した帝京大学の新見正則准教授は、「有名なオペラの曲が健康に良い効果をもたらし、生存期間を伸ばした。これは重要な研究結果であることを期待しているし、きっとそうだと信じている」と語った。

 この研究によると、耳の聞こえないマウスは心臓移植後、約1週間しか生きられなかったのに対し、オペラを聞かせたマウスは平均で26日間、生存したという。

 しかし、ここで問題となるのは聞かせる音楽の種類だ。研究チームによれば、最も延命効果が高いのはオペラの楽曲だったが、モーツァルトの曲を聞いたマウスも、20日間と、まずまずの生存日数を示したという。一方でアイルランド出身の歌手、エンヤの曲を聞かされたマウスは、わずか11日で息絶えたとのことだ。

【心理学賞】酔っ払い、あるいは酒に酔っていると思い込まされている人は、自分のことをより魅力的だと考える

 オハイオ州立大学のブラッド・ブッシュマン(Brad Bushman)氏、フランス、グルノーブル大学のローラン・ベーグ(Laurent Begue)氏らの研究により、酔っ払っている人、あるいは実際には酒を飲んでいないのに自分が酔っ払っていると思い込まされている人は、しらふのときよりも自分が魅力的であると思い込む傾向にあることが判明した。

 この研究の最も驚くべき部分は、アルコール飲料に味を似せた、プラシーボ(偽薬)ドリンクを飲んだ人に関する結果だ。この場合でも、自分が酔っ払っていると思い込んだ場合には、実際に酒に酔っている人と同じように、自分が飲めば飲むほど魅力的になっていると感じていたという。

 被験者には残念な話だが、この研究によれば、酔った人の自分に対するイメージは、ほかの人からの評価とは一致しないとのことだ。研究チームでは、酒を飲んでいない「判定員」に、さまざまな被験者の様子をとらえたビデオを見てもらったが、実際に酔っ払っている、あるいはそう思い込んでいる人たちが、しらふのときよりも魅力的と判断されることはなかったという。

【生物学および天文学賞】天の川を頼りに道を知るフンコロガシ

 地上を這うフンコロガシが道を知るのに空を頼りにしていることを解き明かしたスウェーデン、ルンド大学の動物学者マリー・ダッケ(Marie Dacke)氏、南アフリカのヨハネスブルクにあるウィットウォータースランド大学の昆虫学者マーカス・バーン(Marcus Byrne)氏らの研究が、生物学および天文学賞を受賞した。これらの昆虫は、地面でフンの玉を転がす際の道しるべとして、アフリカの空高くに光る月や、天の川の明るい星の帯を用いるという。

 この研究ではまず、フンコロガシをプラネタリウムの中で歩かせ、さまざまな星を消したり、投影される位置を変えたりして、フンコロガシがどのような行動をとるかを調べた。その結果、フンコロガシはまっすぐに進むために、天の川を手がかりにしていることがわかったという。

 さらに屋外での研究により、この昆虫が空の星を頼りに進路を決めていることが確認された。

 バーン氏によると、「空を見上げられないように、フンコロガシにキャップをかぶせると、道に迷ってしまった。しかしキャップを取ると、また正しい道を選べるようになった」という。

【物理学賞】人間も水面を走ることができる--ただし、池と人間の両方が月面にある場合に限られる

 イタリアのミラノ大学で生理学を研究するアルベルト・ミネッティ(Alberto Minetti)氏は、自らの研究について、「ご存じの通り、月面の重力は地球上の6分の1しかない。地球上では、水面を走ることができるのは一部のトカゲや鳥類に限られるが、月面であれば人間にもこれが可能でであることを発見した」と解説した。

 ミネッティ氏をはじめとする研究チームは、水面走行が可能なバシリスク属のトカゲの水力モデルを作成し、これを人間に当てはめた。その結果、大きさや形状が著しく異なるとはいえ、人もこれらのトカゲと同様に、水面を走ることが可能であることが示された。ただしこれには、重力が地球より著しく小さい場合、という条件がつく。

 研究チームではボランティアを募り、小さなヒレをつけてもらうとともに、器具を用いてこれらの人々をプールの上につるして重力の小さい環境をシミュレートし、人間でも水面を歩けることを確かめた。

【化学賞】タマネギを切ると涙が出る原因の解明と、涙が出ないタマネギの開発

 タマネギを切ると涙が出る理由には複雑な要因が絡んでいるが、その謎を解き明かす研究によって、「切っても涙が出ないタマネギ」が一歩現実に近づいたかもしれない。

「我々は、これまで知られていなかった新種の酵素を発見し、これがタマネギを切ると涙が出る原因であることを突き止めた」と、日本のハウス食品の研究拠点、ソマテックセンター所属の永留佳明氏は説明した。この研究成果を記した論文は、永留氏をはじめとするハウス食品の研究員と、東京大学、京都大学の科学者が共同執筆したもので、当初「Nature」誌に掲載された。

 永留氏によれば、この酵素を特定した後に、研究チームでは遺伝子組み換え技術を用い、タマネギからこの酵素を取り除く方法の開発に取り組んだ。その結果、「切っても涙の出ないタマネギ」の作成に成功したが、このタマネギにはほかの面でも優れた点があることが判明したと、同氏は報告している。

「タマネギをよりおいしくし、健康に良い効果を持つほかの成分が、同時に増えていることがわかった」と、永留氏は説明している。しかし、このタマネギが一般の食卓に上るまでには、まだ大きな問題が残っている。「こうしたタマネギは遺伝子組み換え食品なので、政府から安全であるとのお墨付きがない限り、試験ができない」と、同氏は述べている。

【考古学賞】トガリネズミを自ら食べて、人間の消化器系によって溶かされる骨の種類を特定

 研究者自ら、生ゆでにしたトガリネズミを噛まずに飲み込むと聞くだけで、科学のためにかなりのものを犠牲にしているように思われるが、ブライアン・クランドール(Brian Crandall)氏の研究にはさらに先がある。その結果生じる排泄物の標本を集め、分析するという作業だ。

 20年前、当時はまだ学部生だったクランドール氏がこの研究を始めた際には、これでイグ・ノーベル考古学賞を受賞することになるとは夢にも思わなかったことだろう。同氏の目的は、超小型の哺乳類を主に食べていた場合に、人間の消化作用の結果として生じる排泄物に、どのような特徴が出るかを確かめることだった。

「世界中で、あらゆる年代の考古学の発掘現場すべてにおいて、超小型哺乳類の骨が見つかる。問題は、これをどう解釈するかだ」と、クランドール氏は語る。

 研究の結果、噛まない場合でも、人間の消化器官を通ると、歯や脚の骨、脊髄など、ほとんどの骨は完全に形がわからない状態になってしまうことが判明した。頭蓋骨などの骨は残るものの、「大きな損傷が認められた」という。この研究結果から、発掘現場で見つかる骨の山に関する解釈や、見つかりにくいと考えられる骨の種類について、これまでとは違った考え方が必要になるかかもしれない。

【確率論賞】長く横になっている牛は間もなく立ち上がる可能性が高いが、次に横になるのがいつになるかは、誰にもわからない

 スコットランドのエディンバラにあるSRUC研究所の動物学者、バート・トルカンプ(Bert Tolkamp)氏は、牛の生態を忍耐強く観察して確率論賞を受賞した。その研究成果によると、牛が横になっている時間が長ければ長いほど、その牛が間もなく立ち上がる可能性は高くなるという。一方で、一度立ち上がった牛が次に横になるタイミングを予測するのは、容易ではないことも判明した。

 この研究の目的は、動物の行動を理解することだが、畜産農家にとってはより実用的な意義がある。牛が立ち上がったり、横になったりする行動や、これらの行動の変化に関する情報が手に入れば、牛の病気の発見、家畜の畜舎への収容や管理に関する技法の評価、さらには発情サイクルの特定に役立つ可能性がある。

◆受賞者不在のまま授与されたその他の賞

 満員のサンダーズシアターで行われた授賞式では、出席できなかった受賞者に対しても不在のまま賞の授与が行われた。そのうちの1人、1972年に飛行機のハイジャック防止システムで特許を取った故グスターノ・ピッツォ(Gustano Pizzo)氏には、【安全工学賞】が授与された。これは電動の機械設備を用いたシステムで、ハイジャックを企てた者を飛行機の床に設けた落とし穴にはめ、格納して拘束する。さらにこのハイジャック犯を特別に設けられた投下口を開けて落とすと、犯人はパラシュートで降下、地上で待っている警察が身柄を確保するという仕組みだ。警察には、無線で前もって、降下位置を知らせておくという。

 2013年度の【平和賞】は、2011年に公共の場での拍手を禁じたベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が受賞した。これは同国の街頭で起きていた、無言で拍手するという抗議行動を抑え込むことが目的だった。ベラルーシの国家警察も同賞を受賞したが、これは片腕の男性を拍手をしたかどで逮捕するなど、この禁令の順守に熱心に取り組んだことが理由となった。

 最後に、【公衆衛生賞】は「American Journal of Surgery」誌に「タイ国におけるペニス切断の多発に対する外科処置について」という論文を掲載したタイの医師グループに贈られた。この論文によると、「1970年以降の10年間、虐げられたタイの妻たちが、就寝中の(女好きの)夫のペニスを包丁で切り取るという事件が多発した」という。論文によれば、タイでは高床式の家屋が一般的で、こうした家の床下に切り取られたペニスが捨てられ、家畜のアヒルに食われてしまうこともまれではなかったという。夫たちにとっては幸いなことに、今回イグ・ノーベル賞を受賞した研究は、主に技術が進歩したペニスの再植術を中心に取り上げている。

Photograph by Winslow Townson, AP

文=Brian Handwerk

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