モササウルス、泳ぎは速かった?

2013.09.12
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保存された軟組織の輪郭から初めて見つかったモササウルスの尾びれ(上の写真)。クジラやイクチオサウルスのように、モササウルスも徐々にサメに似た外観に進化していった(下のイラスト)。

Photograph courtesy Johan Lindgren; illustration courtesy Stefan Solberg
 何も知らない獲物をじっと待ち伏せる大きな“海の怪物”。それも十分に恐ろしいが、モササウルスが現在のホホジロザメのように、尾びれのひとかきで素早く獲物に追いついていたのだとしたら、それこそ古代の海の悪夢と呼ぶにふさわしい。モササウルスがまさしくそのような生物だったことを示す研究結果が発表された。 2008年にヨルダンの採石場から見つかった、7200万年前のモササウルス科プログナトドン属の化石から、ひれ状の軟組織の印象が尾に沿って残っているのが見つかった。この印象は、古代の“海の怪物”だったモササウルスが、ウナギやウミヘビのような小さな尾びれではなく、現生のサメに似た力強い尾びれをもっていたことを示している。

 モササウルスは恐竜時代の末期、約9800万~6600万年前の海水と淡水に生息していた水生爬虫類だ。

 モササウルスの化石は多数見つかっているが、このトカゲの祖先がサメに似た尾びれをもっていたことを裏付ける軟組織の痕跡が、自分の生きているうちに見つかるとは思わなかったと、研究共著者で、テキサス州ダラスにある南メソジスト大学の古脊椎動物学者であるマイケル・ポルシン(Michael Polcyn)氏は話す。

 ポルシン氏によると、この化石は非常に保存状態が良く、尾びれを補強する線維の向きまで見分けられるという。

「うろこの輪郭(も)見える」と、研究共著者でスウェーデンのルンド大学の古脊椎動物学者であるヨハン・リンドグレン(Johan Lindgren)氏は述べる。

◆過去の説に疑問

 200年以上の間、モササウルスの尾びれは、ウミヘビのような櫂(かい)に似た形状と考えられていたとリンドグレン氏は言う。モササウルスはトカゲの仲間であるため、尾びれも現生のトカゲの近縁種に似ているはずだとの発想からだ。

 しかしそれだと、体長10メートルを超えることもあるモササウルスは、多くの待ち伏せ型の捕食動物がそうであるように、瞬発的なスピードしか発揮できない。

「一般的に、モササウルスの泳ぐスピードは遅く、せいぜい素早い突進ができる程度だと考えられていた」とアメリカ、ミズーリ州にあるカークスビル・オステオパシー医科大学で爬虫類の動きを研究するブルース・ヤング(Bruce Young)氏は述べる。ヤング氏は今回の研究には参加していない。

 尾びれの構造の再考は、モササウルスが予想よりはるかに活発で泳ぎの速い生物だった可能性を示唆すると、ヤング氏は述べる。「実際は獲物に泳いで追いつくことができたのかもしれない。この可能性はモササウルスの解釈に新たな道を開くものだ」。

◆見事な裏付け

 ヤング氏によると、モササウルスが直線的な尾びれをもっていたという、それまで支配的だった説は、10年ほど前から疑問視されるようになっていたという。

 しかし、モササウルスの尾びれの形状に関する推測は、あくまで化石の骨だけを分析した結果にすぎず、それが研究の妨げになっていたとヤング氏は述べる。

 研究共著者のポルシン氏によると、モササウルスの化石の尾の骨をサメの尾の構造と比較した結果のみから、モササウルスは分岐した尾をもっていたと主張する研究者もいるという。

 モササウルスはサメと同じくらいの大きさであり、サメこそが現生でモササウルスに最も近い生物だと考えられているとヤング氏は述べる。ただし進化的には、モササウルスはサメよりオオトカゲに近い生物だ。

 モササウルスの化石から、骨の周囲の軟組織の印象が見つかったのは素晴らしいことであり、ここ10年推測されてきたことを「見事に裏付ける」ものだと、ヤング氏は述べている。

◆古代の遺産を守る

 今回研究に用いられたプログナトドン属の化石標本は、体長が約2メートルで、まだ若い個体のものだと考えられている。プログナトドン属の成体は体長が約10メートルに達することもある。

 化石標本は2008年、ヨルダンのアンマン近郊にある採石場の作業員によって発見された。タイルの原料にするため取り出した大きな石灰岩を割ったところ、中から化石が現れたとリンドグレン氏は述べる。

 化石標本はアンマンにあるエターナル・リバー自然史博物館(Eternal River Museum of Natural History)のコレクションに加えられ、2011年にそこを訪れたリンドグレン氏の目に留まった。

 作業員に発見された化石のほとんどは、一般市場に流出してしまっているとリンドグレン氏はみている。「博物館に持ち込まれるのはほんの一握りだ」。

 ヨルダン当局がこれら化石の重要性に気づき、より多くの標本が登録され、保護されることをリンドグレン氏は願っている。

 難民や隣国シリアの紛争という問題を抱えるヨルダンで、化石に対する人々の意識を高めることは容易ではない。しかし、そのような状況にあるからこそ、ヨルダンの人々に自国の博物学的遺産について知ってもらうことは、これまで以上に重要なのだとリンドグレン氏は訴える。

 シリアと国境を接するヨルダンでは、それが困難であることは研究者たちもわかっている。「(それでも、)私はヨルダンの人々に、これが彼らの国の遺産であることを理解してもらうつもりだ」と、リンドグレン氏は述べている。

 今回の研究は9月10日付で「Nature Communications」誌に発表された。

Photograph courtesy Johan Lindgren; illustration courtesy Stefan Solberg

文=Jane J. Lee

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