ゲーム、脳機能、そして社会の関係性

2013.09.05
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ドイツ西部、ケルンで開催されたコンピューター・ゲームの見本市「ゲームズコム」(8月22日)。展示ブース内で来場者が新作ゲームのテストプレイを楽しんでいる。

Photograph by Oliver Berg, Picture-Alliance/DPA/AP Images
 英科学誌「Nature」オンライン版に今週発表された研究によると、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者らが開発した高速カーレース・ゲーム「NeuroRacer」が、加齢による脳の衰えに対抗できることが示された。現代のコンピューター・ゲームには、脳の活性化につながる利点がいくつかあるという。この研究を含め、ゲームと脳機能の意外な関係性を示す事例についてお伝えしよう。◆カーレース・ゲームは加齢による脳の衰えに効く

 NeuroRacerの開発に携わったUCSFの認知神経科学者、アダム・ガザレイ(Adam Gazzaley)氏によると、このゲームは短期記憶や注意力、集中力など、加齢とともに衰える脳の認識機能を鍛えるために入念に設計されたという。

 研究では、マルチタスク型のNeuroRacerを1カ月間に12時間プレイした60~85歳の高齢者が、同年代はもちろん、未経験の20代若年層よりも高いスコアを記録するようになった。この認識機能の向上から、脳の加齢による衰えは従来の説とは異なり修復可能で、今後は脳の活性化を目的としたゲームを活用できる見通しが生まれた。

 ガザレイ氏によると、NeuroRacerのプレイヤーは、車の操作に絶えず集中するとともに、画面上に散発的に表示されるサインに適切に反応しなければならない。特定のサインにはボタン操作が必要で、それ以外の場合はボタンを押してはならない。「2種類の異なる作業を同時にこなす必要がある」と同氏は言う。

 上達するとゲームの難易度も上がり、並行作業のスキルも高めていかなければならない。脇目もふらず車の運転にのめり込んだり、逆に速度を極端に落としてサインに集中したりしていては、スコアアップはおぼつかない。

 また、いくつかの点で、ゲーム内のスキルだけでなく、一般的な認識機能の向上も見られた。

「被験者に認識能力のテストを実施したところ、作業記憶と持続的注意力が選択的に向上したことがわかった。どちらも予想外だった」とガザレイ氏。

 非常に興味深い結果が出たが、ガザレイ氏はすべてのゲームに脳の活性化作用があるわけではないとも指摘している。NeuroRacerは、特定の脳障害を持つ患者の訓練用に、1年以上かけて開発されたという経緯がある。

「この分野の発展のきっかけになればいい。治療目的でこの種のインタラクティブ・メディアを活用するという手法が丹念に研究され、経験則に基づく入念な検証を願っている」と同氏は付け加えた。

◆ゲームを軍事訓練に活用

 アメリカ軍には、ゲームを訓練などに応用してきた長い歴史がある。例えば、新兵募集を目的に開発した無料の軍事訓練ゲーム「America's Army」では、プレイヤーは自宅にいながら実際の軍務を追体験できる。

 最新の歩兵訓練用ゲーム「Dismounted Soldier Training System(DSTS)」では、仮想戦闘訓練が分隊規模まで拡大されており、歩兵となったプレイヤーは、シミュレーション上のさまざまな戦場に赴くこととなる。このゲームは、アメリカのゲーム開発会社Epic Gamesが実現したUnreal Engine 3という高性能システムを基盤にしているという。

 DSTSをプレイする訓練生は、仮想現実にネットワーク接続されたヘッドセット、手足のセンサー、コンピューター制御の武器を身に付け、アフガニスタンの山岳地帯やイラクの市街地などのさまざまな戦場シミュレーションを体験する。DSTS内の仮想的な訓練環境下で味方兵士と共同で作戦を進め、敵兵や民間人、リアルな障害物などと対峙することとなる。

 この種のゲームは民間企業でも活用されており、多大な成果が上がっている。例えば、コロラド大学デンバー校のビジネススクールが実施した調査からは、ゲームで訓練を受けた従業員は生産性が高く、情報量にも優れることがわかっているという。

◆ゲーム内の暴力表現と実際の暴力犯罪の間に関連性はない

 学校内での銃乱射事件をはじめ、頻発する凶悪事件が耳目を集めているアメリカでは、ゲームの暴力描写が引き金になるという見方が多くの支持を集めている。しかし、ゲームが実世界での行動に与える影響について、議論が定まっていない。

 ハーバード大学のシェリル・オルソン(Cheryl Olson)氏は、著書『ゲームと犯罪と子どもたち -- ハーバード大学医学部の大規模調査より』の出版にあたり、マサチューセッツ総合病院とハーバード・メディカルスクールで大規模な分析調査を行った。

「多くの人々は知らないが、1990年代半ばから若年層による暴力事件は激減している」と同氏は言う。「しかしこの間に、携帯電話やゲーム機などのデバイスを介してゲームをプレイする機会は増加している。昨今のゲームはグラフィックのリアリティが増しているため、犯罪や非行との関連性が強くなっていると思いがちだ。しかし、われわれの調査からは、そのような傾向は一切見られない」。

 うつ病や注意欠陥障害(ADD)を患う10代の若者を対象にオルソン氏が実施した最新の調査では、暴力描写が含まれるゲームが反社会的行動や攻撃的行為、いじめ行為などを助長するケースは一切見られなかった。むしろ実際には、ADDの子どもに対する若干の鎮静化作用が判明したという。

 各種メディアでは、暴力描写が含まれるゲームや、ガンシューティングなどに多い主人公の一人称視点で進むゲーム(通称FPS)が問題視される場合が多い。しかし、この種のゲームは市場に出回っている中のごく一部にすぎない。2012年に発売され、年齢制限(レイティング)が設定されたゲームのうち91%は、「E(6歳以上対象)」、「E10+(10歳以上推奨)」、「T(13歳以上推奨)」のいずれかに分類されている。

 そして、若年層を対象としたこうしたゲームには、貴重な家族の時間を生み出す効果があるという点も忘れてはならない。アメリカのエンターテインメントソフトウェア協会(ESA)の調査によれば、家庭を持つ親の約3分の1が、週に1回は子どもと一緒にゲームを楽しんでいるという。

Photograph by Oliver Berg, Picture-Alliance/DPA/AP Images

文=Brian Handwerk

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