音楽は人々を結束させるツール?

2013.08.26
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カリフォルニア州インディオで開かれた「コーチェラ・ミュージック・フェスティバル (Coachella Music Festival)」のコンサートで歓声を上げる人々。

Photograph by Mario Anzuoni, Reuters
 なぜ人類は音楽を発明したのか。映画のようなタイムマシンが実現するまで、この疑問は1960年代のガレージバンド「クエスションマーク&ザ・ミステリアンズ」(Question Mark and the Mysterians)の正体ともども、謎のままであり続けるだろう。 それでも、学問の世界は常に何らかの説を提起しようとしている。チャールズ・ダーウィンは、音楽は異性を引きつけるために発明されたと考えた。この説は、ロビン・シックの楽曲『ブラード・ラインズ~今夜はヘイ・ヘイ・ヘイ♪』が2013年夏に世界中でヒットしたことで信憑性を増している。

 しかし一方で、音楽は“社会の接着剤”、すなわち初期人類を緊密な共同体として結びつける道具として生まれたという説もある。

 アメリカ、コロラド大学の心理学と神経科学の上級研究員であるクリス・ラーシュ(Chris Loersch)氏はこの説にのっとり、それを証明するための研究を行った。研究において、ラーシュ氏はカナダ、オンタリオ工科大学の社会科学・人文科学部のネイサン・アーバックル(Nathan Arbuckle)氏とともに、仮説を裏付ける一連の実験を実施した。

「この仮説は、一度に大勢の人々の気分や行動に影響を及ぼし、個人を結束した集団にまとめ上げるという、音楽のユニークな能力に基づいている」とラーシュ氏は説明する。その例として、軍楽やスポーツの試合で演奏される音楽、儀式で打ち鳴らされる太鼓のもつ効果を挙げている。

 研究で行われた7つの実験のうち2つでは、アメリカの大学や他国から集められた被験者879人の、音楽に対する「感情的な反応」が観察された。その一方で、被験者が自分の所属する集団への帰属意識をどの程度有しているかについてもあわせて調査された。その結果、音楽を聴いて心を動かされた度合いが最も高かった被験者は、「より強い帰属欲求」を有していた。

 ラーシュ氏にインタビューしたところ、「今回の研究結果は音楽が集団生活に役立つツールとして発達したという説を決定的に証明するようなものではないが、それでも仮説を補強する証拠としては十分な内容だ」と語った。

◆あなたの仮説は、我々がなぜ他のファンと集うためにコンサートに高いお金を払うのか、説明するものでしょうか?

 私はひと頃、「フィッシュ」(Phish:アメリカのロックバンド)のコンサートによく行きました。そこにはある種の共同体意識があって、その共同体では互いに交流する上でたくさんのルールが存在します。観客は大きな集団として結束し、自分たちの周りにいる全員を家族として扱うのです。周りの人たちとまさしく一体化する、それがコンサートというものだと私は思います。研究論文にリンクを張ったユーチューブ動画では、ステージ上の人物が手を振り始めると、観客がみなとびきりの笑顔でまったく同じ動作をします。その顔を見ると、音楽がいかに強い影響を及ぼしているかがわかります。4万人が1つの集団として完全に結束しているのです。

◆しかし、観客とは友達でもなんでもありませんよね?

 たとえ赤の他人どうしでも、音楽が人々を個人ではなく集団の一員として結びつけ、コントロールするというのが我々の考えです。われわれ人間が生きる上での主な動機は、集団の良き一員になることです。個人としての自意識を手放し、集団というより大きなものの一部になることは気分のいいものです。

◆コンサートではときにブーイングなどもありますが。

 それほどあからさまではありませんが、私たちは他の社会的行動に対しても常にブーイングをしているのではないでしょうか。なんらかの社会契約をまっとうしない人がいると、その人は集団から排斥されます。

◆つまり、コンサートに遅刻したり、ひどい演奏をしたりするミュージシャンは、ブーイングの格好の的というわけでしょうか?

 その場をコントロールする立場にいるからといって、ミュージシャンも排斥の対象になることは免れないでしょう。

◆音楽が人々を集団として結びつけるものだとしたら、人間がひとりでも音楽を聴くのはなぜでしょう?

 ひとりで音楽を聴いていても、それが楽しいのは、ちょうどテレビを観ているときと同じように、まるで他者と交流しているかのような、集団の一員になったような一種の錯覚に陥るからだと思います。人間には、どこかに帰属している感覚を得たいという強い動機があります。帰属していると錯覚させてくれるものはすべて満足感をもたらすため、我々はそうしたものをドラッグのように追い求めてしまうのです。

◆音楽は異性を引きつけるために発明されたという説についてはどう思われますか?

 音楽を奏でると大勢の人々をコントロールする力が得られる、そして力は異性を引きつけるというのが我々の考えです。

◆あなたの好きなミュージシャンは?

 私はスティービー・ワンダーが好きですね。彼は感情を伝えることに素晴らしく長けていると思います。自分の感情を聴き手の感情にしてしまう。それもとても豊かな感情です。

Photograph by Mario Anzuoni, Reuters

文=Marc Silver

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