アメリカのローレンス・リバモア国立研究所にある国立点火施設(NIF)は、世界最大級のレーザー核融合実験施設だ。直径約9メートルのレーザー集光施設(写真)では、192本の強力なレーザービームが照射され、ほぼ無限の核融合エネルギーを生み出すという実験が行われている。しかし現時点では、核融合から生まれるエネルギーがレーザー出力を下回っており、研究の先行きが不透明になっているという。

Photograph courtesy Damien Jemison, LLNL
 アメリカ、カリフォルニア州リバモアにある国立点火施設(NIF)では、核融合炉の一種、レーザー核融合の研究・開発が進められている。太陽などすべての恒星のエネルギー源、核融合反応を地上で実現し、ほぼ無限大のエネルギーを活用する実験が開始されてから4年。壮大な希望が込められたNIF計画は現在、政治と科学の両面から先行きが不透明になっている。 オバマ大統領が提出した2014年度の予算案で、NIF予算は約6千万ドルの減額と査定されている(前年比14%減)。NIFの予算増加を狙う上下院の有力議員たちの働きかけにより、やがて妥協案がまとめられる見込みだが、NIFの問題は予算カットだけではない。当初の予定では既に成功を収めているはずだったNIF計画は、根本から見直される事態になっている。

◆192本のレーザー

「永遠に未来のエネルギーのまま」と揶揄される核融合炉だが、実用化を目指す研究が世界中で開始されて既に60年以上の年月が経過している。原子力発電所などで実現している核分裂反応では、ウランなどの重原子の原子核が2つの軽い原子核に分裂する際にエネルギーが生成される。核融合は逆に、2つの軽い原子核が衝突して融合、1つの重い原子核が生まれ膨大なエネルギーを放出する反応だ。

 核分裂反応では、原発の原子炉内の濃縮ウラン約450グラムが秘めるエネルギーは、100万ガロン(約3800キロリットル)のガソリンに匹敵する。一方、核融合反応で取り出せるエネルギーは、核分裂の3~4倍ほどになる。さらに核分裂では、千年単位の半減期の放射性廃棄物が生じるが、核融合炉の廃棄物は放射性レベルが低く、数十年で無害になる。また、核融合反応の燃料、水素原子は、水中に普遍的に存在するというメリットも魅力的だ。

 しかし核融合炉は、実用化まで多くの技術的な問題を抱えている。天然ウランから発見された核分裂反応は、1940年代の時点で原理が確立されており、比較的少ないエネルギーで1つの原子核を分裂させることが可能だ。しかし原子核同士が反発する力を超えて融合させるには、恒星内部のような圧倒的な温度と圧力を再現しなければならない。

 NIFの研究施設は競技場3つ分ほどの広大なスペースに広がり、燃料の圧縮と加熱のために192本のレーザービームを1点に集光する実験を行っている。20ns(ナノ秒)間隔のレーザーパルスは、直径約9メートルの真空の集光施設(ターゲットチャンバー)内にある、幅数ミリ程度の極小の三重水素原子(固体水素ペレット)めがけて一気に照射される。その出力は瞬間的に500テラ(兆)ワットに上り、衝突した水素原子は1000分の1に圧縮されて密度が鉛の100倍に上昇、恒星の中心核を凌ぐ環境が地上で再現され、持続的な核融合点火に至る。計画では、レーザーの10倍以上の出力を目指しているという。

 確かにコンピューター・シミュレーションでは、核融合出力はレーザー照射を上回る予定だった。ところが実際は、実用化するに足る規模のエネルギーを生み出す「核融合点火」のプロセスが実現に至っていない。

 NIFの192本のレーザー装置が稼働を開始したのは2009年2月。当初の目標として、2012年10月1日までの「点火」が実現するはずだった。しかし水素原子の融合は頻繁に実現しているが、エネルギー収支はマイナスの状態が続いている。オバマ大統領と連邦議会内議員らがNIFの予算カットを決断した主な理由は、この停滞状態を受けてのことなのである。

 シカゴ大学の物理学者ロバート・ロスナー(Robert Rosner)氏は、「簡易的な計算では、レーザー照射によって十分な量のエネルギーが水素ペレットに蓄えられるはずだった」と語っている。

◆問題点

 NIFで光子科学部門の副主任を務めるエド・モーゼス(Ed Moses)氏によると、解決すべき問題は2つ。まず、NIFが採用した中心点火方式が抱える、水素ペレットの形状を完全な球形に保つという難関をクリアする必要がある。X線カメラで水素ペレットの爆縮の様子を分析した結果から、融合の開始と同時にペレットの形状が凹凸の多いクローバー形に崩れており、圧縮時に熱と圧力が失われている様子が伺えた。「エンジン内の圧力が漏れているようなもので、圧力の上昇が止まってしまっている」とモーゼス氏は言う。もう1つの問題は、水素ペレットを包む半径1.1ミリの薄いプラスチックケースだ。爆縮中の水素をケースの破片が撹拌(かくはん)、熱が失われ、点火が妨げられている疑いがあるという。

 アメリカ国家研究会議(NRC)が最近まとめた報告書は、課題に挙がっている問題点を解決し、核融合点火実現の可能性を判断するために、NIFにあと3年の猶予を与えるべきだと勧告している。さらに、NIFは異なる爆縮法も試してみるべきとの批判も展開されている。

 アメリカ、コーネル大学の物理学者デイビッド・ハマー(David Hammer)氏は次のように批判する。「NIFの研究には考え方に誤りがある。このような巨大実験は、段階が進めば異なった解釈が必要になってくるということを理解しなければならない。NIFは念頭に置かずにどんどん次の段階に進んでしまっているような気がする。より体系的に実験を行うためには、まずは低い量のエネルギーから実験を開始し、コンピューター予測と実際の結果が一致するかどうかを見極めるべきだったように思う。初期段階であれば、予測との食い違いがあってもずっと少ない労力で問題に対処できる。例えば目標の半分の量のエネルギーから実験を開始し、そこで満足のいく結果が得られたら、段階的に量を増やしてコンピューターの予測との誤差を把握していくといった手法が有効だろう。レーザー装置の稼働が開始された2009年の段階で、より科学本位のプロジェクトが組まれていれば、核融合点火は今よりもっと実現に近づいていたはずだ」。

Photograph courtesy Damien Jemison, LLNL

文=Tim Folger