遠吠えの解析でオオカミを個体識別

2013.07.31
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やぶの中から様子をうかがうハイイロオオカミ。アメリカ、アイダホ州のソートゥース山脈で撮影。

Photograph by Jim and Jamie Dutcher, National Geographic
 野外で録音した遠吠えを解析すれば、オオカミの個体識別が可能になるという研究が発表された。再導入に成功したアメリカでは、絶滅危惧種リストから完全に除外されようとしており、いずれ個体数の監視活動にこの手法が役立つのではないかと期待されている。 研究を発表したのはイギリス、ノッティンガム・トレント大学のホリー・ルート・ガタリッジ(Holly Root-Gutteridge)氏が率いるチーム。カナダ、オンタリオ州のアルゴンキン州立公園などで録音したオオカミの遠吠えを解析したところ、群れの個体を97.4%の精度で識別できることがわかった。捕獲後の声ではなく、背景の自然環境音とともに解析する試みは今回が初めてとなる。

 また、音程とともに、今回は音の強弱(音響エネルギー)も解析の対象にする新しい手法が採用されている。

「人間にたとえれば、“Aは高い声、Bも高い声”と、音程だけを重視しいていた。それが今回はより精密に、“優しく語りかけるような声”と“がなり立てるような声”の識別ができるようになった。声の高さに加えて強弱も聞き分ければ、AとBを混同することは少なくなるだろう」。ルート・ガタリッジ氏は説明する。

◆困難なオオカミの追跡

 かつてオオカミは、アメリカとカナダにまたがるロッキー山脈北部や、五大湖周辺に広がる森林の至る場所で姿を目にすることができた。以前から害獣として駆除の対象だったが、1960年代初頭に絶滅に近い状態まで数が減少。保護の対象となった頃は、ミシガン州北部やミネソタ州の森の奥深くに息をひそめるわずか300頭まで追い込まれた。

 その後、絶滅危惧種法(ESA)の保護の下、カナダからの再導入が進められ、アメリカのオオカミは絶滅の危機から脱することができた。同国の動物保護史の中でも最も成功した事例の1つとされている。

 かつての40万頭に比べれば現在の生息数は遠くおよばないが、ミシガン州、ウィスコンシン州、ミネソタ州で合わせて約5000頭、アラスカ州で約7000頭にまで回復。モンタナ州、アイダホ州、ワイオミング州でも生息が確認されている。

 野生動物の個体数の監視は、管理上重要な活動だが、正確性に乏しく、多くの人手を要するという難点を伴う。

 例えば雪上の足跡など、痕跡を基に個体を追跡する場合があるが、積雪時など条件が限られる。またGPS付きの首輪で現在位置を特定する方法もあるが、個体と群れとの関係を突き止めるには不十分だ。

 さらにハイテクの首輪は高価な上、調査に先立ってオオカミを捕獲しなくてはならない。スタッフ全員にとって非常に骨の折れる作業になるとルート・ガタリッジ氏は語る。

◆監視活動に新たな手段

 ルート・ガタリッジ氏らの研究チームが開発した遠吠えの解析手法は、新たな保護手段として活用できる可能性を秘めている。

 例えば遠吠えを特定して追跡すれば、以前より高い精度で個体数を計測・監視できるようになる。現在アメリカでは、数が回復したオオカミを絶滅危惧種リストから完全に除外する動きがあり、州の認可の下で猟を解禁する計画が進んでいる。より高い精度の監視活動が実現すれば、保護法適用解除が時期尚早か否かをじっくり判断する手掛かりになるだろう。これは、多くの環境保護活動家が訴えていることでもある。

 ルート・ガタリッジ氏はこの解析手法を、リカオンやアビシニアジャッカルなど、絶滅の危機にある他のイヌ科動物にも応用できるのでないかと話している。

 今回の研究結果は、生物音響学の専門誌「Bioacoustics」誌オンライン版に7月22日付けで掲載された。

Photograph by Jim and Jamie Dutcher, National Geographic

文=Jennifer S. Holland

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