「暴走温室効果」は起こりえるのか?

2013.07.30
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太陽系で最も高温の惑星、金星の地表の想像図。金星は初期の段階で暴走温室効果と呼ばれる状態に陥ったのではないかと考えられている。

Illustration by Detlev van Ravenswaay, Science Source
 著名な気候科学者ジェイムズ・ハンセン氏は著書『地球温暖化との闘い』において、以下のような警告を発している。「仮に現在埋蔵されている原油、ガス、石炭をすべて燃やし尽くした場合、暴走温室効果が引き起こされる可能性は十分にある。さらにオイルサンドやオイルシェールも燃やすなら、必然的に“ビーナス(金星)・シンドローム”が起きると、私は確信している」。 金星は分厚い大気を持つが、その96.5%は二酸化炭素(CO2)で占められており、地表の温度は摂氏480度以上に達する。金星の水は、はるか昔に蒸発し、宇宙空間に拡散してしまった。金星よりも太陽から離れているとはいえ、大気中のCO2濃度が400ppmにまで上昇している地球でも、同様の急激な気温上昇が起きる可能性はあるのだろうか?

 この議論の鍵となるのは、正のフィードバック・ループで、これには理論的裏付けがある。CO2による温室効果で気温が上昇すると、海からより多くの水分が蒸発する。水蒸気も温室効果ガスの一種であるため、これによりさらに地球温暖化が加速するというメカニズムだ。この正のフィードバックは現在も進行中だ。化石燃料を燃やし続けるとこのプロセスが暴走し、海が完全に蒸発して地球が生物の住めない星になるとハンセン氏は警告している。

 ハンセン氏は著名な科学者ではあるが、この主張は、惑星の大気の進化を専門とする気象科学者に受け入れられるには至っていない。5600万年前に起きた暁新世-始新世温暖化極大(PETM)の時期には、自然現象によりCO2が急速に増加し、地球全体の気温が急上昇したが、地球上の生命は生き延び、海が消えてしまうこともなかった。

 シカゴ大学のレイモンド・ピエールハンバート(Raymond Pierrehumbert)氏は、「今でもビーナス・シンドロームが起きる心配はないと思われる。海が消えるような現象が起きるなら、PETMの期間中に既に発生していたはずだと考えられるからだ」と述べている。

 しかしこの数年で、スーパーコンピューターを用いた地表近くの水分子に関する研究が行われるようになり、基本法則からその性質を計算によって導き出す試みが進んだ。その結果、これらの水分子は、これまで考えられてきたよりも広い帯域で、より多くの放射を吸収することが判明した。さらにこのほど、これらの計算結果をごく単純な気候モデルに当てはめた論文が発表された。この論文の結論には、少々不安をかき立てるこんな一文が含まれている。「暴走温室効果は、これまで考えられていたよりも簡単に引き起こされる可能性がある」。

 ナショナル ジオグラフィックでは、この論文の主著者でカナダ、ブリティッシュ・コロンビア州にあるビクトリア大学に所属するコリン・ゴールドブラット(Colin Goldblatt)氏にインタビューを行い、今回の研究結果について詳しい説明を聞いた。

◆2012年に発表されたばかりの以前の論文で、あなたは、「暴走温室効果は、理論上の可能性に限っても、発生するとは考えにくい」と述べていましたね。

 そうです。私は間違っていたのです! 当時の私の考えは全くの誤りでした。

◆現時点での見解は?

 現在の日射量では、地球では暴走温室効果が起きることは理論上不可能と考えられていました。しかし今回の研究で、我々はこれが理論上は起きてもおかしくないという、正反対の結論に達しました。これは今後起きるだろう、という話ではありません。ただ、理論上は起きる可能性があるということです。

◆何が変わったのですか?

 過去のモデルでは、水蒸気を多く含む大気に吸収される放射の量を、実際より低く見積もっていたのです。

◆そのことと、暴走温室効果にはどんな関係があるのですか?

 基礎の基礎からお話ししますと、地球の表面からは(赤外線が)放射されており、その一部はCO2や水蒸気などの(温室効果)ガスによって大気に吸収されます。つまり、大気中に温室効果ガスがない環境と比較して、宇宙空間に射出される放射が少なくなるわけです。逆に言えば、地球に入ってくる太陽エネルギーと均衡する量の地球放射を宇宙空間に射出するためには、温室ガスがない時よりも地球の温度が高くなければなりません。現在まさに、こうした現象が起きています。人間の活動により温室効果が高まっているため、均衡状態を保とうとする作用により、さらに地球の気温が上昇しているのです。

 さらに、大気中の水蒸気量が一定以上に達すれば、すべての地球放射が、宇宙空間に射出される前に、大気に吸収されてしまいます。何もかも、一つ残らずです。地球放射を宇宙空間に射出できるのは大気の上層部だけです。ですから、水蒸気が一定量を超えると、宇宙空間に放出される地球放射の量は一定レベルで固定されてしまいます。

◆この時、太陽から地球に入る放射が固定レベルを超えると、暴走温室効果が起きると言うことですか?

 その通りです。これは吸収される太陽エネルギーが、(地球からの)熱放射によって射出可能な量を超えた場合に起きる現象です。そして私がこの論文で示した新事実は、地球が宇宙空間に射出可能な放射について、その限界値がこれまで考えられていたよりも低いということです。また、水蒸気が多く含まれる大気においては、吸収される太陽エネルギーの量もこれまでの説よりも多いことがわかりました。ゆえに、これを地球に当てはめると、大気に水蒸気が大量に含まれる場合、宇宙へに射出される熱エネルギー以上の太陽エネルギーを吸収する可能性があるということです。

◆しかし、あなたのモデルは雲による温室効果の緩和作用を考慮に入れていませんね。

 その通りです。こうした研究では、まずは考え得る最も単純なモデルから始めて、徐々に複雑化していくのです。我々の研究では、地球が吸収可能な最大限の太陽エネルギーと、逆に射出可能な最大限の熱放射を計算しました。ですから次のステップでは、雲の要素を入れたモデルを作成することになるでしょう。そうすれば、結論にもおそらく変更点が出てくるはずです。

 雲は太陽光を反射しますが、ある程度以上の高度にあれば温室効果を持ちます。しかし現在の地球では、反射効果の方が圧倒的に大きいため、全体で見れば雲には地球を冷やす効果があると言っていいでしょう。

◆今回の研究は、ハンセン氏の警告とどう関連していますか?

 私の研究成果が示しているのは、CO2の濃度が約3万ppmに達すれば、今すぐにでも暴走温室効果が発生する可能性があるということです。これはすべての石炭、原油、ガスを燃やし尽くした場合のさらに約10倍というレベルです。ですから、化石燃料をすべて燃やしたとしても、暴走温室効果が起きることはありません。とはいえ、すべてを燃やした場合の影響も深刻です。地球上から生命が消えることはないでしょうが、西洋文明が壊滅的打撃を受ける可能性はあります。そうした状態に陥らないとする理論的根拠はありません。

 ゴールドブラット氏らの研究論文は、「Nature Geosciences」誌のオンライン版に7月28日付で掲載された。

Illustration by Detlev van Ravenswaay, Science Source

文=Robert Kunzig

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