「この説が広まって、野生のチーターにも適用されるようになった」と、南アフリカ共和国のパークタウンにあるウィットウォータースランド大学の生物学者ロビン・ヘテム(Robyn Hetem)氏は話す。「アフリカにチーター見物に来ると、大抵ガイドからこの話を聞かされる」。
しかし、この説に待ったをかける研究が発表された。
ヘテム氏が指揮する研究チームが野生のチーター4頭を調べたところ、狩りの成功・失敗にかかわらず、獲物を追跡する間の体温は比較的安定していたことが明らかになった。
体温はチーターが走るのをやめた後に上昇したが、獲物を仕留めたチーターの体温上昇幅は、途中で狩りをあきらめたチーターの約2倍にのぼった。
この結果は、狩りの継続時間、狩りの間の身体活動レベル、および気温といった因子の影響を調整した上で得られたものだ。
「チーターが獲物の追跡中にオーバーヒートするという説を信じていなかったので、それが事実でないと確認されてよかった。驚いたのは、獲物を仕留めた後に体温が上昇したことだ」と、ロンドン動物学会(ZSL)の生態学者で、ナショナル ジオグラフィック協会のビッグキャット・イニシアチブの委員会に名を連ねるサラ・デュラント(Sarah Durant)氏は述べる。デュラント氏は今回の研究には参加していない。
◆原因はストレス?
この流線型をした肉食動物の体温と活動パターンをモニターするため、研究チームはナミビアの「タスク・トラスト・チーター・リハビリテーション・キャンプ」に生息するチーター6頭にセンサーを埋め込んだ。うち2頭はヒョウに殺されたため、最終的にデータを採取できたのは4頭だった。
研究チームは、狩りの後に体温が上昇する理由について、チーターが他の捕食動物を警戒することによるストレス反応ではないかと考えている。
「私が研究を行っているセレンゲティでは、獲物を追跡したり仕留めたりする音を聞きつけてハイエナが寄ってくることはしょっちゅうだ」とデュラント氏は述べる。
狩りで獲物を仕留めた後と獲物を食べるとき、チーターは周囲を非常に警戒するとデュラント氏は言う。「チーターは長いこと寝ずの番をする。おそらく他の捕食動物を警戒しているのだろう」。
チーターは獲物の肉を食べる前に休息をとるか時間を空けることが多いが、ヘテム氏らの研究で体温上昇が観察されたのはこのときだ。体温上昇のピークは、狩りが失敗した場合は約15分後、成功した場合は40分後だった。
◆仮説の裏付け
ヘテム氏は、体温上昇は消化活動によるものではないと考えている。体温上昇は食べているときだけでなく、狩った獲物のそばで休息したり、食べるのを待っている間にもみられたからだ。
既存研究では、シカやインパラが恐怖を示したときに体温が上昇することがわかっている。したがって、同様のストレス反応がチーターにも起こっていると考えれば、狩りの失敗時より成功時のほうが体温が上がる理由を説明できると、ヘテム氏は述べる。
この説をさらに裏付けているのが、今回の研究の被験体となったチーターのオス1頭が、足にトゲが刺さって狩りに参加しなかった日のデータだ。その日、オスは姉妹にあたるメスが仕留めた獲物の分け前にあずかった。
「するとオスの体温はメスと同じパターンを示した。獲物のもとへ行ったとき、体温が上昇したのだ」とヘテム氏は言う。
◆狩猟とランチの関係
この“ストレス反応説”は、さらなる調査に値する興味深い仮説だとデュラント氏は述べる。
デュラント氏はさらに、狩りがチーターの体温にどのような影響を及ぼすか知ることが重要だと話す。というのも、ケニアのマサイマラ国立保護区において、人間がチーターに奇妙な影響を及ぼしていることがわかったためだ。
デュラント氏によると、マサイマラで行われた研究において、チーターは旅行者の団体がランチ休憩に入るのを待って狩猟行動に出ることが明らかになったという。
ヘテム氏らの研究でも、チーターの体温は1日の時間帯に影響を受けることが明らかになっているため、観光客のスケジュールがチーターの深部体温に影響を及ぼしている可能性はあるとデュラント氏は考えている。
マサイマラのチーターたちが、気温の高い時間帯に狩りを行うことを余儀なくされた場合、暑さで熱ストレスを起こすリスクが高まるおそれもあるとデュラント氏は述べている。
今回の研究は、7月23日付で「Biology Letters」誌に発表された。
Photograph by Chris Johns, National Geographic Stock