3D印刷、出力素材に自然の知恵を活用

2013.07.09
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
3Dプリント技術で作られたプラスチックの頭像。このような製造プロセスは、自然を模倣することで改良し、より安全にすることができる。

Photograph by James Leynse, Corbis
 3Dプリント技術への関心が高まっている。ここ数カ月の間に、3Dプリンターを使って、特注の医療機器や、実際に使える銃が作られたという報道があり、食べられるピザを作る計画まで発表された。また、米国の事務用品大手のステープルズ社は6月末、世界初の一般向け3Dプリンター(約1300ドル)を発売した。 生物学者で『自然と生体に学ぶバイオミミクリー』の著者でもあるジャニン・ベニュス氏は、3Dプリント革命は、危険性を伴うけれども、大きなチャンスでもあると話す。ベニュス氏は、自然のプロセスを真似ることで、この技術を改善できると期待している。

◆有害な素材への懸念

 現在の3Dプリント技術が抱える大きな問題は、有害な材料に頼ることが多い点だと、ベニュス氏は指摘する。使われるポリマー(プラスチック)、樹脂、金属粉の種類は増え続けている。

 3Dプリントに用いる材料はすべて、誰が手で扱っても安全な、ありふれたものにするべきだとベニュス氏は主張する。その場で調達できる原料を使い、製品の寿命が来たら「分解」して、再利用可能な物質に戻せなければならない。

◆生体の化学を模倣する

 ベニュス氏は、3Dプリント製造を真に持続可能なものにするカギは、自然のエコシステムの働き方を模倣することにあると話す。「自然は、生命にやさしい化学を利用している。有害でなく、水を基本にし、高熱を必要としない化学だ」。

 自然は、比較的少数の物質から膨大な多様性を生み出す。自然界に存在するポリマーの大半は、5つほどの種類に分類できると、ベニュス氏は説明する。例えばさまざまな動物の皮膚や毛髪や羽毛を作るケラチンや、節足動物の外骨格を作るキチンなどだ。これらの基本的な素材を内部構造に応じて配置するやり方によって、動物の大きさや形や色や機能に大きな違いが生じる。動物を非常に丈夫にもできる。

 たとえば、アワビの貝殻は、内部構造のおかげでハイテクのセラミックよりも頑丈にできている。珪藻の被殻はシリカ(ガラス)でできているが、微小な穴の分布パターンで負荷が分散され、きわめて丈夫だ。

 3Dプリンターは、自然と同じように、単純な素材から複雑な構造を作り上げる点で優れた能力を発揮できると、ベニュス氏は指摘する。どちらも、小さな断片を組み上げて大きな部分を作るという、足し算的なプロセスを用いる。

 これに対して、従来の製造業では普通、引き算的な作り方をする。このやり方の問題は、無駄な廃棄物が大量に生じることだ。

 環境に負荷をかけない3Dプリント技術の研究も、すでに進んでいる。ポリ乳酸というトウモロコシから作るポリマーを材料として使う3Dプリンターもある。ベニュス氏は、これは足がかりではあるが、まだ考えなければならないことは多いと指摘する。

「ポリ乳酸は微生物で分解することができる。しかし私は、遺伝子操作されたトウモロコシを栽培したくはない。植物性プラスチックを育てるために、大量の化石燃料と化学肥料を注ぎ込んでいる。これは古い産業モデルだ」とベニュス氏は話す。「むしろ私は、廃棄物を利用することを考えたい。地元で生じる廃棄物なら理想的だ。あるいは、植物にポリマーを作ってもらうのではなく、私たち自身が、植物のように、過剰な二酸化炭素を利用してポリマーを作る方がいい」。

 ベニュス氏によると、カリフォルニア大学バークレー校の科学者が、捨てられるおがくずを3Dプリンターで利用することを目指しているという。ほかにも、ニワトリの羽や、シーフードの加工でできる廃棄物などの利用も検討されている。煙突からの排気を使い、柑橘類のオイルを触媒にして、ポリカーボネートを作ろうとしているノボマー(Novomer)という会社もあるという。

 ベニュス氏にとって、3Dプリントで作られた製品の廃棄処理も重要な問題だ。「製品を回収する企業のエコシステムを構築したい。材料が生物由来の製品なら、土に返す。技術的に作られた材料の製品なら、プリンターに再利用する」

 動きを止めたものを何でも食い尽くし、分解する細菌や酵素が、自然には存在する。そのあり方を考えれば、こうした製品を分解することは容易なはずだと、ベニュス氏は話す。

◆製造を大衆化する

 バイオミミクリーから得られる教訓の1つは、成長と製造の分散化というモデルだと、ベニュス氏は話す。「カシの木は、太陽の光を受けるために、大きな1枚の葉ではなく、たくさんの葉をつける」。

 3Dプリントでは、誰もが小さなものを自宅で作り、もっと大きなものや複雑なものが必要なら、近所の家や、地域の店のプリンターを利用することができる。「製品ではなく、設計が世界中を飛び回ることになる」。これで明らかに、輸送コストと、それに関わる排出物が削減できる。

 しかしベニュス氏は、起こりうる欠点についても考えを巡らせる。好きなときに好きなものを作れるとしたら、消費パターンはどう変わるかということだ。自分が製造に携わっているからという理由で、今まで以上にものを捨てるようになるだろうか。それとも捨てないようになるだろうか。

 ベニュス氏は現在、誰もがバイオミミクリーとして利用できる自然の機能について研究を進め、そうした機能のライブラリーを構築しようとしている。

「私たちは今、この新しい製造革命を別のイメージで作り換えるチャンスを手にしているのだ」とベニュス氏は話す。

Photograph by James Leynse, Corbis

文=Brian Clark Howard

  • このエントリーをはてなブックマークに追加