成人男性と若者が一緒に埋葬された約1万2000年前の墓。花が捧げられた形跡がある。

Photograph courtesy E. Gerstein
 墓地を花で飾る献花は世界中で広く行われている。この慣習の存在を決定づける最古の証拠として、古代の墓地の土から花や茎の痕跡が発見された。 その現場はイスラエル北部カルメル山の洞窟にある、約1万2000年前の墓地。ミントやセージといった香りのある草花が土に還った後、その痕跡が柔らかい泥に刻まれていたのだ。

 花で飾られた墓は4基並び、そのうち1つには2遺体が埋葬されていた。2人の故人は、成人男性と性別不明の若者と判明。1万5000~1万1600年前の中石器時代、現在のイスラエル、ヨルダン、レバノン、シリアで栄えたナトゥーフ文化の時代に生きた人々だった。

 今回の研究を率いたイスラエル、ハイファ大学の考古学者ダニエル・ナデル(Daniel Nadel)氏によれば、ナトゥーフは住む場所を定めない狩猟採集の生活様式から、定住生活に移行した最初の文化の1つであり、最も早く定住を始めた可能性さえあるという。また、本格的な墓地を先駆けて造ったとも言われている。

「数年間、同じ場所に野営したグループの例はある。しかし、ナトゥーフの人々が暮らした場所のいくつかは、数千年にわたって使われた形跡がある」とナデル氏は説明する。

◆新発見は?

 ナデル氏らによる今回の発見は、ナトゥーフこそ死者の追悼に花を捧げた草分けであると示唆している。

 ナトゥーフより古い時代に花が葬儀に用いられた可能性も、まだ完全には否定できない。1950年代中ごろ、イラクで発掘されたネアンデルタール人「シャニダール4号」(Shanidar IV)の墓に、洞窟内で咲くはずのない花の花粉が見つかったのだ。しかし、この約7万年前の遺跡には複数の穴があり、齧歯類(げっしるい)が種や花を貯蔵しておくために掘ったものではないかという主張もある。

「ネアンデルタール人が栄えた中期旧石器時代から、ナトゥーフ人の中石器時代まで約5万年の隔たりがある。しかし、墓に花が飾られた例は1つも存在しない」とナデル氏は話す。

 ただし、花は腐敗して痕跡が残らなかった可能性も高く、発見されていないだけなのかもしれないとナデル氏は指摘する。

◆重要な点は?

 花が飾られていた2人の墓は慎重に準備されたようだ。穴の壁は泥の薄板で覆われている。底にはピンクやラベンダーの草花が並べられ、その上に遺体は埋葬された。

 花はその外見だけでなく、香りを理由に選ばれた可能性が高い。「春のカルメル山には何百種の花が咲くが、香りが強い種はわずか。ナトゥーフの人々もその善し悪しで選んだに違いない」とナデル氏。

◆何を意味するのか?

 同じ洞窟の墓地には動物の骨なども埋まっていた。2人のために盛大な葬儀が営まれたのではないかとナデル氏は考えている。

「単に埋葬して終わりではなく、歌や踊り、食事など、華やかな儀式が行われたと考えるべきだろう。今、われわれが見ているのは宴の跡なのかもしれない。動物の骨は残り物というわけだ」。

 今回の研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に7月1日付けで発表された。

Photograph courtesy E. Gerstein

文=Ker Than