好物は目でわかる? 肥満研究の新手法

2013.06.28
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
チョコレートなどのおいしい食べ物を摂ると、快楽や依存に関わるとされるホルモン、ドーパミンの濃度が急上昇することがわかった。

Photograph by Michael Melford, National Geographic
 チョコレート・ブラウニーを見ると目が輝くという人もいるだろうが、これには化学的な根拠があることが判明した。濃厚で甘い、おいしい食品を摂取すると、快楽や依存に関わるとされるホルモン、ドーパミンの濃度が急上昇するというのだ。しかもこの現象は、網膜で測定できる。 今回発表された研究では、新たに網膜電位図(ERG)という手法を用い、ある種の食品が一部の人にとって我慢できないほどの魅力を持つ理由を解き明かそうとした。ERGは通常、網膜の損傷について調べる際に眼科医が用いる手法だ。

◆ドーパミン測定の新手法

 食品とドーパミンの間の関係を調べるために、ERGを用いるという画期的な手法を考案したのは、ドレクセル大学所属の栄養学者、ジェニファー・ナセル(Jennifer Nasser)氏だ。

 コカイン中毒者を対象にERGを用いた研究について、文献を読んだナセル氏は、肥満に関する研究においても同じ手法が使えるのではないかとひらめいた。

「以前から食品に対するドーパミン反応を測定したかったのだが、これまでの手法は脊椎穿刺のように被験者に大きな負担を強いるものか、PET(ポジトロン断層法)のように非常に高価なものしかなかった。PETの場合は1回につき2000ドル以上の費用がかかる」とナセル氏は語った。「網膜電位図はかなり昔からある臨床検査の手法で、他の方法と比べても格段に簡便だ。眼科医の診察室でも実施できる」。

 光が網膜にあるドーパミン作動性ニューロンを活性化させることは既に判明している。また、砂糖や脂肪の摂取で、中脳と呼ばれる部位にドーパミンが放出されることもわかっていた。しかしこれまで、この2つの系統には関係がないと思われていたとナセル氏は指摘する。

「多くの網膜研究の専門家からは、ERGをこのような方法で用いてもうまくいいかないだろうと言われた」とナセル氏は振り返る。しかし、脳内と目の両方におけるドーパミン放出を調べた複数の研究について、その結論を関連づけて考えると、「(ERGを用いる手法は)理にかなっているように思えた」という。

◆甘いものに反応する脳

 ナセル氏はニューヨーク肥満栄養研究センターの協力者とともに、被験者に3つの物質のうち1つを摂取してもらい、その後に目に光を照射する実験を行った。3つの物質には、水、チョコレート・ブラウニー、メチルフェニデート(リタリン)が選ばれた。リタリンには脳内のドーパミン濃度を上げる作用があることがわかっている。光の刺激を受けた視神経からは電気信号が発せられるが、これはERGで測定できる。ゆえに放出されたドーパミンの量がわかるという仕組みだ。

 その結果、口いっぱいにブラウニーをほおばった場合には、リタリンとほぼ同等のドーパミン上昇が記録された。一方、水では目立った上昇はなかった。

 これはつまり、ブラウニーを食べ始めると止まらなくなるのには科学的な理由があるということだ。

 ナセル氏によると、ブラウニーに含まれている材料の中では、チョコレートよりも砂糖と脂肪分の方が大きな役割を果たしているとみられるという。今回の研究でチョコレート・ブラウニーが選ばれたのは、最初の被験者が大好物としてこのお菓子を挙げたという単純な理由からだった。今後の研究では、他の食品や、砂糖などの原材料を単独で使い、被験者の反応を検証してみたいとナセル氏は述べている。

 ただしこの研究は、被験者はわずか9人と規模が小さく、最終結論を導き出すまでにはより大人数を対象とした調査でも同じような結果が出るかどうかを検証する必要があると、ナセル氏は慎重な姿勢をとっている。それでも、特定の食品を食べ過ぎてしまう傾向がある人に対して、ERGを用いる手法が使えるのではないかと、同氏は期待をかけている。特に肥満の蔓延が先進国で進む中で、この手法は大きな意味を持つ。現時点で、アメリカに住む成人の3分の1以上は肥満状態にある。

「今後は、過食症などの摂食障害に悩む人に対して、さまざまな食品について反応を確かめる手段として、この手法を活用することが考えられる」とナセル氏は述べている。

 同氏は仮定の話として、以下のような例を挙げた。ある人が、複数の異なる食品について、どれも同じ程度に好きだと述べていたものの、ERG検査でそのうち1つだけが大幅なドーパミン上昇を招くことが判明したとする。「この場合、その人に対して『この食品は避けた方がいいでしょう。食べ過ぎてしまう可能性が高いからです』とアドバイスできる」。

 では、この結果から、食べ過ぎは脳のせいと言ってしまってもいいのだろうか?

「ある意味では、我々の行動のほとんどは、脳内で起きている化学物質の反応に基づいているとも言える。だからと言って、我々に意志による選択能力がないということにはならない」とナセル氏は語っている。

 今回の研究は学術誌「Obesity」のオンライン版に6月20日付で掲載された。

Photograph by Michael Melford, National Geographic

文=Amanda Fiegl

  • このエントリーをはてなブックマークに追加