最古、70万年前のウマのゲノム解読

2013.06.27
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野生下で一度は絶滅したと考えられていたプシバルスキーウマ(モウコノウマ)。

Photograph by Michael Nichols, National Geographic
 DNAは過去に光を当て、化石では見えないものをわれわれに示してくれる。しかし実際、その光はどれほど過去にまで届くのだろうか? これまでにDNAが解析された最古のものとしては、5万年前のマストドンや11万年前のホッキョクグマの化石などがある。しかしこのほど、より古い時代のDNAを解析する取り組みに新たな成果が加わった。70万年以上前のウマの脚の骨から、これまでで最も古いゲノム(全遺伝情報)が解読されたのだ。

「7万~8万年前という古代のゲノムでも解読が可能なことはわかっていた」と、コペンハーゲン大学に所属するデンマーク自然史博物館の進化遺伝学者ルドビク・オーランド(Ludovic Orlando)氏は話す。「そこで、もっと古い時代を試してみようということになった」。

 オーランド氏のチームは更新世のウマのゲノムを解読し、現生のウマ、シマウマ、ロバを含むウマ属の系統の祖先が今から400万~450万年前に出現したことを突き止めた。これは従来考えられていたより約200万年早い。

 さらに、古代のウマのゲノムからは、現生の家畜ウマと、絶滅の危機に瀕しているプシバルスキーウマ(モウコノウマ)との進化上の関係も明らかになった。プシバルスキーウマはモンゴルのステップ地帯原産で、現存する最後の野生ウマだ。

 研究の結果、プシバルスキーウマは、家畜ウマの祖先の系統から枝分かれした種であることがわかった。2つのグループが分岐したのは約5万年前のことだ。

 プシバルスキーウマは一度は野生下で絶滅したと考えられ、わずか数十頭の飼育個体から再野生化が試みられた。これほど少ない個体数では、遺伝的多様性が小さすぎて種の保存に値しない可能性も考えられるが、実際にはプシバルスキーウマはアラブやアイスランドホースといった家畜ウマの品種よりも遺伝的多様性が大きいことが今回の研究で明らかになった。「プシバルスキーウマは、種の保存活動を行うに足る十分な遺伝的多様性を備えていると考えられる」とオーランド氏は述べている。

◆低温保存

 はるか昔に死んだ古代の生物標本からゲノムを抽出するのは手のかかる作業であり、さかのぼれる時代にも限界がある。

 DNAの半減期に関するこれまでの研究から、たとえ理想的な状態に置かれていたとしても、150万年より以前のDNA配列は短すぎて解読不可能だと考えられる。したがって、6500万年前に絶滅した恐竜は、現生の鳥類につながる系統を除いて、そのDNAが復元される可能性は非常に低い。

 しかし、標本の保存環境によっては、DNAの劣化が復元不可能な域に達するまでの時間を引き延ばすことが可能だ。

「冷蔵が望ましい」とオーランド氏は述べる。液体の水はDNA分子を劣化させるため、冷凍保存がさらに理想的だ。

 今回の研究で分析された長さ15センチのウマの脚の骨は、カナダ西部ユーコン準州で見つかったもの。標本は2003年に発掘されるまでの約73万5000年の間、永久凍土によって一種の冷蔵状態に維持されていた。

 標本に生体分子が残っているかどうか判断するため、オーランド氏らはまず、骨を構成するタンパク質の一種、コラーゲンのアミノ酸が標本から見つかるかどうかを調べた。

 標本からコラーゲンが見つかり、そのアミノ酸配列が解読できたため、研究チームは続いて脚の骨からのDNA抽出に取りかかった。

 多くの古代化石と同様に、見つかったDNAの大半は、死んだウマの骨に繁殖していた細菌のものだった。しかし、現生のウマのDNAと比較することで、研究チームは古代のウマそのものに由来する「内因性の」DNAを発見することに成功した。

「120億個のDNA分子の配列を解読し、そのうち4000万個がウマ由来」だったとオーランド氏は述べる。「微生物のDNAの海に、ウマのDNAが1滴混じっていた」。

◆未知なる世界

 これまで解読された最古のゲノムより1桁近くも古い時代のゲノムが復元されたことにより、遺伝子レベルで新たに研究対象となる化石の幅が一気に広がることになる。寒冷な環境に住んでいたとすれば、古代のヒト属もこれに含まれる可能性がある。

「更新世の生物ならよりどりみどりだ」と、カナダ、オンタリオ州にあるマックマスター大学の進化遺伝学者ヘンドリック・ポイナー(Hendrik Poinar)氏は電子メールでの取材に対して述べている。同氏は今回の研究には参加していない。

 ポイナー氏は、このような研究手法がゾウの進化にも適用されることを願っている。「そうなれば、体毛やサイズの可塑性の起源や、ゾウがいかにして多様な生態環境に適応したかという問題の手がかりになるはずだ」。

 研究チームが70万年前のゲノムを完全解読できたこと自体は、ポイナー氏にとって驚きではない。ただ時間と費用がかかるだけだという。

 しかし一方で、古代のゲノムが解読できるかどうかは、標本の年代よりも保存環境で決まるとポイナー氏は指摘する。「近い将来、さらに古いゲノムも解読されることは確実だ」。

 今回の研究は6月26日付で「Nature」誌オンライン版に発表された。

Photograph by Michael Nichols, National Geographic

文=Jane J. Lee

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