収穫後の野菜に生体リズム?害虫を防御

2013.06.21
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果物や野菜は売り場に並べられてもまだ生きていて、害虫に対する防御機能を発揮することができる。

Photograph by Billy Smith II, AP Photo
 次に近所のマーケットで野菜や果物の売り場を訪れたら、こう考えてみてほしい。ここに並ぶ農作物はまだ生きている、と。急に売り場から起き上がって動き出すことはないが、一部の果物や野菜には収穫後も1日周期のリズム(概日リズム)が存在し、害虫から身を守る成分や栄養素をこのリズムに従って調整していることが、新たな研究で明らかになったのだ。 この研究によると、小売店で購入したキャベツやレタス、ホウレンソウ、ズッキーニ、サツマイモ、ニンジン、ブルーベリーは、最長で収穫後1週間は明暗サイクルに反応するという。

 さらに、これらの農作物は、これをエサとするイラクサギンウワバ(学名:Trichoplusia ni)の幼虫と同じ明暗サイクルに置かれた場合、虫の捕食に対しより効果的に対抗できることも判明した。

 この研究の共著者で、テキサス州ヒューストンにあるライス大学の植物生物学者、ジャネット・ブラーム(Janet Braam)氏によると、植物の生体時計は、昼間の時間の長さの変化に従って季節の移り変わりを察知する際に役立つという。しかしこの生体時計は、害虫から身を守るためにも植物にとって非常に重要な意味を持つ。

「(植物には)昆虫が食べに来る時間帯がわかるので、前もって防御を固めておくことができる」とブラーム氏は説明する。

 ブラーム氏をはじめとする研究チームは、シロイヌナズナという植物について、防虫作用を持つ化合物のグルコシノラートのレベルが、生体時計によって上下することを把握していた。シロイヌナズナはアブラナ科の植物で、農作物ではキャベツ、ブロッコリ、カリフラワーなどと近縁関係にある。

 そこで研究チームは、キャベツなどの食用作物で、同じような結果が出るかどうかを検証することにした。

◆明暗のリズムに反応する農作物

 ブラーム氏ら研究チームは、小売店で購入したキャベツの葉から、直径約3センチの円形のサンプルを切り抜いた。さらにこのサンプルについて、3日間にわたり12時間は明るい場所に、12時間は暗い場所に置くことで、キャベツに概日リズムを“教え込んだ”。

 この間、研究チームはサンプルのグルコシノラートのレベルを4時間おきに測定した。これには4-メチルスルフィニルブチルグルコシノラート(4MSO)と呼ばれる、抗癌および抗菌作用を持つ物質も含まれている。さらにこちらも、12時間は明るく12時間は暗いというサイクルで訓練されたイラクサギンウワバの幼虫に、これらのサンプルが与えられた。

 その結果、最も食害が少なかったのは、イラクサギンウワバの幼虫と同じスケジュールで明暗サイクルにさらされたキャベツのサンプルだった。一方、幼虫のサイクルとスケジュールがずれていたキャベツ(幼虫が“夜”を過ごしている時間帯に“昼”を経験していたサンプル)の場合、おなかを空かせた幼虫に食べられた組織の量は、リズムが合っていた場合と比べて20倍に達したという。

 グルコシノラートは、幼虫がエサを求めて活動する昼の時間帯にキャベツに蓄積される。そのため、幼虫と同じスケジュールにあったキャベツは、自らをエサとする虫に対し、食べられる前に防御体制を整えることができた。

 しかし、幼虫とスケジュールがずれていたキャベツの場合は、同レベルの防御手段を持たなかった。「簡単に言うと、こうしたキャベツは不適切な時間に害虫に備えていたわけだ」とブラーム氏は説明する。

 キャベツに関する実験の結果に力を得た研究チームは、さらに他の果物や野菜についても、同様に生体時計のリズムを教え込むことが可能かどうかを確かめることにした。

 そこで研究チームでは、レタス、ホウレンソウ、ズッキーニ、サツマイモ、ニンジン、ブルーベリーを、キャベツと同様の12時間は明るく12時間は暗いというサイクルに置いた。これらの果物や野菜はキャベツと違ってグルコシノラートを含んでいないが、それでも同様にイラクサギンウワバの幼虫に対する耐性を示したという。

◆実世界への応用

 ブラーム氏は今後、果物や動物に含まれるグルコシノラート以外の栄養素や化合物のうち、どんなものが生体時計に制御されているのか、さらに研究を進める計画だ。さらに同氏は、これらの化合物レベルの変化を、人間の健康にプラスになる形で応用する方法も見つけ出したいと考えている。

 米国際開発庁(USAID)の農業生態学者、ジェリー・グローバー(Jerry Glover)氏は、「殺虫剤などの環境に与える影響が大きい手法をとることなく、より効率的な有害生物防除を考えていく上で大きな可能性を秘めている」と、今回の研究を評価する。グローバー氏はこの研究に関与していない。

 今回の研究についてグローバー氏は、害虫に対抗するために植物が採用している進化上の戦略を調べ、人間が農作物を守る上でも有用かつ実際に使える方法を突き止めた点を意義として挙げている。同氏はUSAIDで全世界における食料確保や収穫後の農作物の損失などの問題に取り組んでいる。

「収穫後の虫害で農作物が傷み、収穫される食物の実に30%が食用に適さなくなることがある」とグローバー氏は指摘する。「サハラ以南のアフリカでは、これは深刻な問題だ。この割合を減らすことができれば、現状よりはるかに多くの食料確保が可能になるはずだ」。

 今回の研究は「Current Biology」誌のオンライン版に6月20日付で掲載された。

Photograph by Billy Smith II, AP Photo

文=Jane J. Lee

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