英国でアナグマの間引き措置を巡り激論

2013.06.07
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イギリスのウェールズ地方で、巣穴から顔を出すアナグマ。

Photograph by Richard Packwood, Oxford Scientific/Getty Images
 6月5日、イギリス下院は4時間におよぶ激論を交わした。しかし話し合われたのは、公共支出の削減でもアフガニスタン派兵でもなければ、中絶の権利に関する問題でもない。“アナグマ”に関する問題だった。 アナグマは体長1メートルほどの哺乳類だ。体毛は灰色で、口には鋭い歯が何本も生え、顔にはシマウマのような白黒のしま模様がある。イギリスの固有種で、迷路のように入り組んだ地下の巣穴を住処にしており、ミミズや昆虫などを食べている。イギリスには、約30万匹が生息しているという。

 適応能力が抜群で、2度の氷河期を乗り越えている。しかし、保守党が大勢を占めるイギリスの連立内閣が検討中の、2つの地域を対象とした“あるプラン”が実行に移されると、約5000匹が殺処分されることになる。このプランは、アナグマを媒介にして畜牛の間で広まっている結核菌の感染拡大阻止を目的とした“間引き”措置の準備段階に相当するという。

 1971年、南西部のグロスターにある倉庫内で見つかったアナグマの死体を解剖したところ、結核感染が判明した。以来、科学者や政治家、官僚、農場経営者の間では、結核菌がアナグマを介して畜牛に感染すれば、対応に追われて農場経営にダメージを与える危険性があると懸念が広がっていた。

◆抗議が殺到

 2012年には、イギリスの環境・食糧・農村地域省(DEFRA)が、間引き措置の試行計画を発表。感染被害が特に顕著なグロスターシャー州とサマセット州に生息する5000匹のアナグマを対象に、“人道主義に基づく安全かつ有効な”手段で行われるという。

 計画が具体性を帯びていくにつれ、議論の輪が広がった。今年6月1日には、ロックバンド「クイーン」のギタリスト、ブライアン・メイ氏主導の抗議デモに発展。反対活動の一環として、「Badger Swagger」という曲も発表した。

 間引き政策の中止を要請する嘆願書には23万5千名が署名。政策を強硬に推進しているDEFRAのオーウェン・パターソン(Owen Patterson)大臣に、ブードゥー教の呪いをかけるWebサイトも公開されたという。ツイッターやブログ、新聞社へのメールには反対意見が溢れ、大衆紙「Daily Mail」には「代わりに政治家を間引きしろ」という投書が寄せられた。他方、ある農場経営者の妻は、「これがネズミだったらこんな騒ぎにはならないのに」と指摘している。

◆高いコスト

 DEFRAによると、2012年度に結核菌感染対策に費やされた税金は1億ポンド(約150億円)に上ったという。10年先には、10倍に達するともみられている。1990年代後半、イギリス政府は独立調査委員会を設立してこの問題の調査を開始。10年の歳月と5000万ポンド(約75億円)の調査費を投じて、報告書「Bovine TB: The Scientific Evidence」がまとめられた。報告書は、過去に行われた予防的な間引き措置の効果は低く、「コストとリターンを考慮すると、アナグマの間引き措置が牛結核の感染阻止に効果的とは言えない」と述べている。

 しかしDEFRAの広報担当者はこれに異議を唱え、「その後の調査によると、間引き措置が中止された後も、結核菌根絶措置が有効であることに変わりはない」と話している。「世界各国の例を見てもわかるように、畜牛だけでなく、アナグマなどの結核菌を媒介する野生動物も見据えて感染拡大を防ぐ措置を講じないと、効果的に牛結核に対処できない」。

◆ロマンチストとリアリスト

 動物愛護団体の活動家は、もし間引き措置が実行に移されたら、ブブゼラ(南アフリカの楽器)や花火で大々的に抗議活動を展開すると宣言。国際動物福祉基金(IFAW)のロビー・マースランド(Robbie Marsland)氏はWebサイト「International Business Times」に、「活動家たちは率先して抗議活動を行うだろう。警察関係者は、もし間引きが実行されたら大規模な混乱が起こると危惧している」と語った。

 今回の論争は、イギリスの国民性を象徴しているとも言える。「キツネ狩りのときと同じだ。都市部と農村部に分かれて議論が白熱している」と、ローハンプトン大学社会学部で主任研究員を務める文化人類学者ショーン・キャリー(Sean Carey)氏は語る。「都市部の住民はアナグマに同情的だ。イギリスの有名な児童文学書、『たのしい川べ』に登場する動物として、特別な存在になっているからだ。一方、地方の農場経営者は、確固たるリアリストと言うべき精神性を持っている。センチメンタルな気分に浸っている場合じゃない、現実を見ろ。それが彼らの考え方だ。両者が相容れないのも無理はない」。

Photograph by Richard Packwood, Oxford Scientific/Getty Images

文=Cathy Newman

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