食虫植物と共生するボルネオのアリ

2013.05.24
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ボルネオ島原産の“泳ぐアリ”(学名:Camponotus schmitzi)。ウツボカズラの一種(学名:Nepenthes bicalcarata)のつるを伝って歩いている。

Photograph by Mark Moffett/Minden Pictures/Corbis
 ボルネオ島の深い森の中で、1匹のアリが食虫植物のつるを伝って歩いている。一見すると無惨な死につながりそうな光景だが、この島原産の“泳ぐアリ”(学名:Camponotus schmitzi)は、ウツボカズラの一種(学名:Nepenthes bicalcarata)に対してまったく恐れる様子がない。これは、この2つの生物が生きていくうえで互いを必要としているためであることが、最新の研究によって明らかになった。 昆虫と植物の互恵関係というのは目新しい話題ではない。すみかにしている植物を草食動物から守っている昆虫もいるし、その植物が単独では得ることのできない栄養素を提供している昆虫もいる。昆虫はその見返りに、花の蜜とすみかを得る。

 だがボルネオ島のこのアリとウツボカズラの関係は、表面上はアリにしかメリットがない一方的なものに見えていた。今回の研究はその謎を解くものだ。それによると、ウツボカズラはこのアリのおかげで、重要な栄養素である窒素を得る機会を失わずに済んでいるのだという。

 ウツボカズラの葉は壺のような形に変形しており、そこには消化液がたまっている。これを捕虫器といい、縁に近づきすぎて液の中に落ちてしまった昆虫は少しずつ溶かされ、消化吸収される。しかしボルネオ島のこのアリの場合、捕虫器に入ってもまったく問題がない。そして消化液に溺れた不運な昆虫を食べてしまうのだが、これはウツボカズラにしてみれば、食物を奪われたことになるはずだ。

 ところがウツボカズラには、この侵入者に対抗する様子がない。それどころか、このアリがウツボカズラの茎の内部にコロニーを作ることを許してさえいる。

 こうした事実から、「一般的には、アリの側からも(植物に)何らかのメリットを与えているのではないかと考えられる。だがそのメリットが何なのか、これまで明らかになっていなかった」と、アリゾナ州ツーソンにあるアリゾナ大学の進化生態学者ジュディス・ブロンスタイン(Judith Bronstein)氏は言う。ブロンスタイン氏は今回の研究には参加していない。

◆ウツボカズラにとってのメリットは?

 生態学者のマチアス・シャーマン(Mathias Scharmann)氏らによる今回の論文には、アリのコロニーを抱えたウツボカズラはコロニーのないものより成長が速いことが指摘されている。しかし、このアリとウツボカズラの協力関係がどのようなものかは、これまで十分に説明されていないという。

 シャーマン氏らケンブリッジ大学の研究チームは、このアリがウツボカズラの栄養状態の向上に寄与しているのではないかと考えた。そしてこの仮説が正しいかどうか、正しいとすればどのようなメカニズムがはたらいているのか検証を行った。

 研究チームは、ウツボカズラにとって貴重で摂取の難しい栄養素である窒素の同位体のひとつを用いて、それがアリからウツボカズラへと受け渡される経路をたどった。その結果、ウツボカズラはアリの排泄物や死体に含まれる窒素を吸収していることが分かった。

◆ほかの昆虫を逃がさない

 ところで、ウツボカズラを利用しているのはこのアリだけではない。ハエやカは、この植物の壺型の捕虫器に卵を産みつけている。孵化した幼虫は消化液に落ちたほかの昆虫を食べて成長し、成虫になるとウツボカズラから出て行ってしまう。この場合、ウツボカズラは自分のものにできるはずだった獲物をハエやカに奪われたことになる。

 ただし、これらのハエやカが幼虫のうちにアリに食べられてしまえば、貴重な窒素の源は引き続きウツボカズラの体内に確保されることになる。

 もしハエやカの幼虫が1匹たりとも捕虫器から逃れられなかった場合、ウツボカズラの得る窒素の量は19%も増えると、研究著者のシャーマン氏は言う。

「実に見事な研究だ」と、アルゼンチン国家科学技術研究会議(CONICET)の植物学者ブリジッテ・マラッツィ(Brigitte Marazzi)氏は言う。アリからウツボカズラへの養分の伝達がどのように行われているのかは、これまで誰も解明できていなかったとのことだ。マラッツィ氏は今回の研究には参加していない。

 ブロンスタイン氏も同意見だ。アリとウツボカズラとの協力関係についての今回の論文の説明は、かなり納得のいくものだと語っている。

「このアリが食べる昆虫のほとんどは、ウツボカズラから逃れ出る能力のあるものだ。つまりアリのおかげで、ウツボカズラは栄養源を失うことなく体内に閉じ込めていられる」とブロンスタイン氏は言う。

「今回の例は、2種の生物だけを見ていたのでは(関係を)理解できない場合があることをよく示している」とブロンスタイン氏は言う。もし研究チームがウツボカズラとアリだけに注目していれば、ハエやカの幼虫のせいで何が起こっているかは見逃されてしまったかもしれない、というわけだ。

 ウツボカズラとアリの共生関係についての今回の論文は、5月22日付けで「PLOS ONE」誌に発表された。

Photograph by Mark Moffett/Minden Pictures/Corbis

文=Jane J. Lee

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