飛べないペンギン、泳ぎに特化が原因か

2013.05.21
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翼を広げるアデリーペンギン。フリッパーとも呼ばれる翼は、ペンギンの泳ぎを助ける役割を持っている。

Photograph by John Eastcott and Yva Momatiuk, National Geographic
 ペンギンははるか昔に空を飛ぶ能力を失ったが、新たな研究により、その理由がついに解き明かされる可能性が出てきた。泳ぎに特化する方向に進化し始めていたペンギンにとって、地上を離れて空を飛ぶことのコストがあまりに高くなったことが原因ではないかと、この研究では指摘している。 空を飛ぶ能力があれば、南極圏に暮らすペンギンにとってはこれがかなり優位に働いていたとも考えられる。そのため、ペンギンたちが飛行能力を失った理由と経緯は、科学者にとって謎だった。

 広く支持されている生体力学上の説は、かつてペンギンは飛行に適した翼を持っていたが、これが次第に泳ぐのに適した形に進化し、その結果飛行能力を失ったというものだ。

 一方で、水中に潜る能力が向上したことで、海中で餌を獲得するチャンスが増えたと考えられる。

 そして今回、ペンギンをはじめとする海鳥の飛行と潜水に関する消費エネルギーのコストを調べた新たな研究により、これまでの説を裏付ける重要な証拠が浮上した。

◆他の海鳥との比較で浮かび上がる進化の過程

 ハシブトウミガラス(学名:Uria lomvia)は、ペンギンと同じように水中に潜る習性があるが、空を飛ぶこともできる。この鳥の生理機能とエネルギーの使い方は、飛行能力を失う直前のペンギンの祖先と近いのではないかと考えられている。

 また、ヒメウ(学名:Phalacrocorax pelagicus)にも潜水の習性があり、水中では足を使って推進力を得ている。今回の研究チームは、これらの海鳥が、飛行が可能だった最後のペンギンの祖先について、その生態エネルギー消費に関する生体力学モデルになるのではないかとの仮説を立てた。

 研究チームでは、ハシブトウミガラスのエネルギー消費に関して、技術と同位体を用いた詳細な分析を行い、現生のペンギンが地上生活を送っている理由を解き明かした。この研究によると、ハシブトウミガラスは他の飛行能力を持つ鳥との比較では潜水能力が最も高く、この能力で勝る鳥類はペンギンしかいないという。

 これに対し、その飛行能力は、現在知られている空を飛ぶ鳥類や脊椎動物との比較で、最も多くのエネルギー消費を強いるものとなっており、この能力の維持が難しい状況になりつつあることも判明した。

 研究チームでは、カナダのヌナブト準州にあるハシブトウミガラスのコロニーと、アラスカ州ミドルトン島に生息するヒメウを対象に調査を行った。まず、対象となる鳥に酸素と水素の安定同位体を注入し、これを用いて海鳥たちの身体的活動コストを追跡した。さらに同チームでは、活動時間を計測する装置を取りつけ、行動を追跡した。これは歩数計のように、鳥の動きや速度などのデータを記録するものだ。

「基本的に、これらの鳥が行う活動は3パターンしかない。じっとしているか、泳いでいるか、空を飛んでいるかのいずれかだ。したがって、たくさんの個体のデータを集め、こうした鳥の時間の使い方と、同位体を使った計測から判明した生存に必要な総コストを突き合わせれば、それぞれの行動パターンについてどれほどのコストがかかっているかが判明する」と、今回の研究の共著者で、スコットランドのアバディーン大学でエネルギー研究グループを率いるジョン・スピークマン(John Speakman)氏は説明する。

 スピークマン氏はさらに、「(ペンギンは)ウミスズメに似た祖先から進化したと考えられる」と述べた。同氏の説明によれば「進化の過程で翼が小さくなり、これは水に潜るにはより適しているが、飛行には向かなくなる」という。

◆飛行能力喪失は大型化の代償?

 東京大学の大気海洋研究所に所属する行動生態学者で、ナショナル ジオグラフィック協会のエマージング探検家に選ばれた経歴を持つ佐藤克文氏は、今回の研究について、ペンギンが空を飛ばなくなり、身体が大きくなった謎を解き明かす重要な要因を示したと評価している。ペンギンは水中での優位性を保つために、空を飛ぶ能力を失ったというのだ。佐藤氏はこの研究に関わっていない。

「興味深い事例として、コガタペンギンのケースが挙げられる。コガタペンギンはウミスズメ科の鳥の一部よりも身体が小さく」、体重も1キロほどだと佐藤氏は指摘する。「(ウミスズメ科に属する)ウミガラスにとって潜水にかかる身体的コストはコガタペンギンとほぼ同じだ。つまり、コガタペンギンは潜水に加えて空を飛ぶこともできるウミガラスが住んでいる環境では、生き延びられないということになる」。

 身体が大きければ、潜水能力が向上し、より長い時間潜っていられるようになる。ペンギンが飛行能力を失った直後に進化が加速し、より身体の大きなペンギンが次々と出現したのも、これが理由かもしれない。

◆進化の加速は哺乳類のライバル登場も一因?

 今のところ、飛ぶことができたペンギンの祖先の化石は見つかっておらず、現在知られている最も古いペンギンは、中生代と新生代の境目に位置し、恐竜などの大量絶滅が発生したK-T境界(5800~6000万年前)直後のものとなる。

 スピークマン氏も「ペンギンの進化が、K-T境界の直後に起きた(哺乳類の)爆発的な放散と同時期に起きたと推測したくなる気持ちはわかる」としながらも、「この説を支える直接的な証拠はなく、白亜紀の末期に起きた可能性も十分にある」と注意している。

「現在わかっているのは、K-T境界直後の哺乳類の放散により、(地質学的な意味で)突然に多数の哺乳類が登場したことだ。そのためにクジラ類やアシカ類(などの哺乳類)が海中の餌を奪い合う、強力なライバルになった可能性がある」(スピークマン氏)。

「ゆえに、競争が激化したこの新たな環境において、水に潜る習性を持つ海鳥にとっては、潜水能力に秀でていることが、より大きなメリットをもたらしたとも考えられる。水中環境における能力を向上させようとする圧力により、ペンギンの祖先が進化の結果、一線を越えて飛行能力を失ったとしてもおかしくない」と、スピークマン氏は解説している。

 今回の研究は「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌のオンライン版に5月20日付けで掲載された。

Photograph by John Eastcott and Yva Momatiuk, National Geographic

文=Brian Handwerk

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