米でムスリム差別、爆弾テロ以降

2013.04.30
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コロラド州のロッキーマウンテン国立公園を訪れたイスラム教徒の女性2人。

Photograph by Richard Olsenius, National Geographic
 ボストンマラソンの会場で起きた爆破事件の容疑者として、アメリカ連邦捜査局(FBI)がタメルラン・ツァルナエフ(Tamerlan Tsarnaev)とジョハル・ツァルナエフ(Dzhokhar Tsarnaev)兄弟の身元を特定したことで、アメリカのイスラム社会に緊張が走った。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ以来続いてきた、反イスラム的な空気が再燃するのではないかとの恐れが出てきたためだ。 実際、イスラム教徒が疑いの目で見られたり、糾弾を受けたりする動きは、容疑者の特定前から既に始まっていた。ボストンの爆破事件の現場では、負傷したサウジアラビア出身の学生が居合わせた人に取り押さえられたうえに、「New York Post」紙に容疑者と報じられた。

 ツイッターでは「#Muslims」というハッシュタグがトレンドとして浮上したほか、「Fox News」にも出演するコラムニストのエリック・ラッシュ(Erik Rush)氏がツイッター上で別のユーザーから「もうイスラム教徒を犯人扱いする気か?」と追及され、「ああ、やつらは悪党だ。皆殺しにしよう」と応じている。

 アラブ系アメリカ人反差別委員会(ADC)は声明を発表し、アラブ系およびイスラム教徒のアメリカ人に対する否定的な言動や脅迫に対し「深い憂慮の念を表明」するとともに謝罪を求めた。

 また、3月16日から行方不明になっていた22歳のブラウン大学の学生、スニル・トリパティ(Sunil Tripathi)さんが、爆破事件の容疑者のうち1人と似ているとの指摘がインターネットユーザーから起きると、報道機関は捜査当局に裏を取ることなく、失踪で既に心を痛めていたトリパティさんの家族を取材攻勢にさらした(その後トリパティさんへの嫌疑は晴れ、遺体が見つかっている)。

 ADCの広報責任者を務めるラエド・ジャラール(Raed Jarrar)氏は、ボストンの爆破事件以降起きていたアラブ系の人々やイスラム教徒への身体的な暴力は収まりつつあるのではないかと見ている。ただし挑発的な言動は続いており、最も注目を集めた例では4月23日、かつてイリノイ州選出の共和党議員だったジョー・ウォルシュ(Joe Walsh)氏が、アメリカは「我々の敵 -- 若いイスラム教徒の男性たち」について身元調査を行うべきだと提案している。

 ジャラール氏も、爆破事件の余波として起きた、アラブ系およびイスラム教徒のアメリカ人に対する中傷は終息しつつあるとの見方をとりつつも、楽観はできないと語る。「残念ながら、アラブ系アメリカ人への差別は増加傾向にある。毎年、前年よりも状況は悪化している」。

 FBIによると、イスラム教徒を標的にしたヘイトクライム(憎悪犯罪)の件数は、同時多発テロ事件が起きた2001年に過去最高に達したという。この年に報告されたヘイトクライムの数は、前年の28件から481件に激増している。翌2002年には、件数は155件にまで下がった。

 この減少について、過激派を研究する南部貧困法律センター(Southern Poverty Law Center、SPLC)のマーク・ポトック(Mark Potok)氏は、当時のジョージ・ブッシュ大統領による、敵はアルカイダであり、アラブ系の人々やイスラム教徒ではないという趣旨の演説が効を奏したと考えている。「大統領の発言には大きな意味があったと思う」とポトック氏はコメントしている。

 著名人の働きかけによってこのように状況が改善することもあるのに対し、ソーシャルメディアは事態を悪化させる元凶になっていると同氏は指摘する。こうしたメディアにより、インターネットユーザーは「醜悪な言動を多数の人たちに届けることが可能になった。イスラム教徒バッシングにも簡単に加わることができる」というのだ。

 2013年に起きたヘイトクライムの件数の統計をFBIが発表するのは、2014年末の予定だ。そのため、ボストンマラソンでの爆破事件がアメリカにおけるイスラム教徒に与えた影響については、この数字が得るまではっきりとはわからないかもしれない。とはいえ、ヘイトクライムが報告される件数は、実際に起きている件数に比べて大幅に少ないことにも留意しなくてはいけないとポトック氏は警告する。「しかも、イスラム教徒はこうした犯罪を最も報告したがらない集団の1つだ」。

 ポトック氏は、アメリカの指導者に対し、模範を示し、積極的に発言するよう望んでいる。「バラク・オバマ大統領は迅速に行動する必要がある。扇動する側の動きは非常に速い」。

Photograph by Richard Olsenius, National Geographic

文=Lacey Gray

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