ザトウクジラの狩りは“文化”か?

2013.04.26
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バブルネット・フィーディングという方法で狩りをする2頭のザトウクジラ。南極大陸の西岸で撮影。

Photograph by Yva Momatiuk and John Eastcott, Minden Pictures/Corbis
 ヒトも含めた多くの動物にとって、新しい歌を獲得したり、捕食の際に道具を使ったり、群れに特有の習慣を身につけたりするうえで、周囲から教わることは重要なステップだ。 クジラやイルカなどクジラ目の動物に文化や伝統が存在するかどうかは議論の的となってきた。ここで文化や伝統というのは、周囲とは区別可能なグループの中で共有され、社会的学習を通じて獲得される行動を指す。

 米北東部、メイン州沖のメイン湾に暮らすザトウクジラ(学名:Megaptera novaeangliae)の群れでは、特有の捕食行動が観察されている。最新の研究によって、この行動が社会的ネットワークを介して共有されたことの確かな裏付けが得られた。

 この捕食行動は、ロブテイル・フィーディングと呼ばれる。1980年にメイン湾で1頭のクジラが行っていた記録が最も古い例だ。それ以降、ステルワーゲンバンク国立海洋保護区に出入りする約700頭のザトウクジラのうち、278頭の個体がこの戦略を取っていることが確認されていると、今回発表された論文では示されている。

「私はこれまで10年以上、文化の伝播はクジラ目の社会において重要だと主張してきた」と、研究の共著者でスコットランド、セント・アンドルーズ大学の海洋生物学者であるルーク・レンデル(Luke Rendell)氏は言う。

 レンデル氏にとって、クジラたちが情報交換していること自体は、もはや驚くべきことではなかった。しかしクジラたちがこの捕食戦略を学習したのは社会を通じてであって、それ以外の、例えば遺伝的傾向などといった要素はあまり関係がないということが、データによってはっきりと示されたのには驚いたという。

◆ザトウクジラの狩り

 ロブテイル・フィーディングは、世界中のザトウクジラに見られるバブルネット・フィーディングという狩りのテクニックのバリエーションのひとつだ。

 バブルネット・フィーディングでは、数頭のクジラが細かな泡を吹き出して、獲物となる魚の群れを囲い込む“網”を作る。そうして魚たちが密集したところに襲いかかって、大きな口を開けて群れごとひと飲みにしてしまう。

 ロブテイル・フィーディングの場合は、尾びれの下側を1~4回水面に叩き付けてから(この行動をロブテイルという)、海に潜って泡で包囲網を作り始める。前もって水面を叩いておくことで、イカナゴなどの獲物が水面に跳び出して包囲網の外に逃げるのを防いでいるのではないかとレンデル氏はにらんでいる。

「この行動の起こりは、ニシンの仲間の個体数が激減し、イカナゴが急増したことと密接に結びついている」とレンデル氏は言う。レンデル氏のチームでは、ロブテイル・フィーディングはザトウクジラが狩りのターゲットをニシンからイカナゴに切り替えた時期に始まったのではないかと考えている。

 ロブテイル・フィーディングがクジラ社会にどれだけ広まっているかを追跡するため、研究チームでは漁獲高のデータと、長期にわたって(1980~2007年)ザトウクジラを観察したサンプリングデータを照らし合わせた。このデータは、ニューイングランドにあるホエールセンターで教育を受けた観測スタッフらによって蓄積されてきたものだ。

 ロブテイル・フィーディングの使用が増えたのは、80年代のイカナゴの個体数のピークと連動していた。そればかりでなく、新しい捕食行動の知識が、クジラ同士のゆるやかな社会的つながりを反映していることも確認された。

 単純に言うと、ロブテイル・フィーディングの行動を示していなかった個体も、この新しいテクニックを身につけたクジラと関わりができると、ロブテイル・フィーディングを始める傾向が強いということだ。

◆文化と呼べるかどうかは議論の余地も

 今回の研究は、伝統と社会的学習の問題を検討する際にこの種のネットワーク分析を利用できることを示したという意味で、新しいアイデアをうまく実証しているとベネット・ガレフ(Bennett Galef)氏は言う。ガレフ氏はカナダ、オンタリオ州にあるマックマスター大学の元教授で、社会的学習理論を専門としている。

 ガレフ氏は今回の研究には関与しておらず、ある行動が社会的学習を介することなくグループに浸透する場合もあると指摘する。クジラは群れをなして移動するため、同じ行動を同時期に習得する可能性もあるとガレフ氏は言う。「それは文化とは言えない」。

 ある情報がどのようにしてグループの隅々まで行き渡るかを確認するには、観察に依拠するのではなく実験を行ったほうが、正確なところまで分かるとガレフ氏は言う。とはいえ、クジラの群れを実験室に連れて来るわけにいかないことはガレフ氏も認めている。

 カナダ、ケベック州にあるマギル大学の行動生物学者サイモン・リーダー(Simon Reader)氏も、観察に基づく研究には議論の余地が残る場合もある、という立場だ。これらのザトウクジラの間でのロブテイル・フィーディングの広まりについては別の説明もできるかもしれないとリーダー氏は言う。「とはいえ、社会的学習によるものとする説には、かなり強力な裏付けがあると思う」。

 ザトウクジラの捕食行動の広まりに関するレンデル氏らの研究は、4月26日発行の「Science」誌に掲載された。

Photograph by Yva Momatiuk and John Eastcott, Minden Pictures/Corbis

文=Jane J. Lee

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