セディバ猿人、ヒト属の系統樹に異議?

2013.04.15
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発掘地点付近に置かれたアウストラロピテクス・セディバ(セディバ猿人)の少年の頭蓋骨。

Photograph by Brent Stirton, National Geographic
「ルーシー」のことは誰もが知っている。過去40年間、この有名な320万年前のアウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人)の部分骨格は、人類を先史時代の過去と結びつける存在であり、アファール猿人はわれわれ人類を含むヒト(Homo)属の直接の祖先である可能性が最も高い種とされてきた。 しかし、一連の最新研究において、南アフリカ共和国のヨハネスバーグにあるウィットウォータースランド大学の古人類学者リー・ベルガー(Lee Berger)氏らのチームは、それを覆すような説を唱えている。ルーシーとは別種のヒト族(ホミニン)であるアウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba、セディバ猿人)のほうが、さらに人類の起源に近い可能性があるというのだ。事実なら、進化上の重要な分岐点という長らくルーシーが占めてきたポジションを奪うことになる。

 2010年にベルガー氏らによって命名されたセディバ猿人は198万年前のヒト族で、成人女性と少年の部分骨格、およびそれとは別の1本の脛骨によって知られる。セディバ猿人は2008年に南アフリカ共和国マラパ地方の洞窟で発見された。

 セディバ猿人を発見して以降、ベルガー氏らは骨格の分析と化石の地質学的背景の分析をさらに進めており、その成果をこのほど6本の研究論文として発表した。

 セディバ猿人の歯、顎、四肢、脊椎を調べた一連の論文は、この初期人類に初期アウストラロピテクス属とヒト属の特徴が奇妙に混在していたことを明らかにしている。今回の発見により、ヒト属がいつどこで誕生したのかという謎の解明に取り組む人々にとって、セディバ猿人の化石は重要な議論の対象となる。

◆歯と骨が語る事実

 おそらく意外なことではないが、セディバ猿人に最も近い種は、同じく現在の南アフリカに約300~200万年前に住んでいたアウストラロピテクス・アフリカヌスであると考えられる。

 セディバ猿人の歯にみられる22の特徴を調べた研究において、リバプール・ジョン・ムアーズ大学のジョエル・アイリッシュ(Joel Irish)氏らのチームは、セディバ猿人が他の初期ヒト族よりもアウストラロピテクス・アフリカヌスに近いことを明らかにした。しかし一方で、セディバ猿人の歯はホモ・ハビリスなど初期ヒト属と共通する特徴も示している。

 テキサスA&M大学のダリル・デ・ルーター(Darryl de Ruiter)氏らによる顎の骨の分析結果は、やはりセディバ猿人が独立した種であることを示しており、この化石が後期アフリカヌスのものだとする既存の説を否定している。ベルガー氏は、歯の特徴から見てセディバ猿人はヒト属の祖先の「最有力候補」だが、このつながりは他のヒト族のより完全な化石が発見されることで変わってくる可能性もあるという。

 骨格のその他の部分には、より原始的な特徴がみられる。デューク大学のスティーブン・チャーチロフ(Steven Churchillof)氏らの報告によると、セディバ猿人の上腕は依然として木登りに適した構造と大きさをもっていたという。

 セディバ猿人はおそらく「何らかの」登り手であっただろうが、「カルスト地帯に住むヒト族にとって、登れるものは樹木に限らなかった」とベルガー氏は述べる。カルスト地帯は石灰岩の溝や洞窟の多い地形だ。

 さらにはチューリッヒ大学の人類学者ペーター・シュミット(Peter Schmid)氏らも、セディバ猿人の胸部が他の初期アウストラロピテクス属と同じ漏斗のような一方に広がった形状を保っていたと報告している。

 奇妙なことに、保存状態の悪い下位肋骨部分のほうが、よりヒトに近い外観をもっている。ニューヨーク大学のスコット・ウィリアムズ(Scott Williams)氏らの報告によると、セディバ猿人の脊椎もやはりヒトに似ており、比較的長く柔軟性のある腰は他のアウストラロピテクス属よりもホモ・エレクトスの脊椎に近く、直立歩行の特徴である脊椎のカーブも有しているという。

 このように、セディバ猿人が二足歩行をしていたのは明らかだが、その歩き方は現生人類とは全く異なっていたようだ。ボストン大学のジェレミー・デシルバ(Jeremy DeSilva)氏らによると、セディバ猿人の女性の踵の骨を調べた結果、セディバ猿人は足を踏み出すときに踵を内側へ向け、踵と一緒に足の外側も地面につけていた可能性が考えられるという。

「踵を内側へひねった状態で足の外側を地面につけると、足が素早く過度に回転して今度は足の内側が地面に踏み込む」とベルガー氏は述べる。それにより「連鎖反応」的に脛、大腿、体幹が回転して体のバランスが保たれたという。

 既知のヒト族でこのような歩き方をする種はほかにおらず、このことはヒトの歩行が一本道に進化してきたのではなく、古代の近縁種の間で発達したいくつかの歩き方の1つが残ったものである可能性を示唆している。

 セディバ猿人の奇妙な歩き方は、「直立歩行と木登りのどちらにも適した足の特徴をもったヒト族による折衷的な移動方法だった可能性がある」とベルガー氏は述べている。

◆続く論争

 骨格上のさまざまな手がかりから、セディバ猿人には原始的な特徴と派生的な特徴が「モザイク」状に混在していると論文は主張している。しかし、セディバ猿人が初期のヒト属と似た部分があることは、本当に進化的に近い関係にあることを示しているのだろうか? それとも、共通する特徴は2つの系統においてそれぞれ別々に進化したものだろうか?

「セディバ(猿人)は派生的でヒト属に近い特徴が全身に数多くみられる。したがって、少なくともヒト属の祖先の可能性があると考えるべきだというのが私の見解だ」とベルガー氏は述べる。

 しかし、他の大多数の研究者は、ヒト属の特徴はマラパで見つかったセディバ猿人の化石よりずっと早くから出現しているとの見解を示している。

 ウィスコンシン大学マディソン校の古人類学者ジョン・ホークス(John Hawks)氏は、セディバ猿人と初期ヒト属とのつながりを示唆する最も有力な証拠は、セディバ猿人の歯だと指摘する。「今回の論文は、下顎骨と歯の共通する特徴はセディバ猿人がアウストラロピテクス・アフリカヌスとともにヒト属の姉妹群に位置することの裏づけであることを非常に明確に説明している」。

◆一筋縄ではいかない位置づけ

 ただし、「話はそれほど単純ではないかもしれない」とホークス氏は注意を促す。初期ヒト属の種についてはわからないことが多く、「ネアンデルタール人を含む後期のヒト属が交雑していたことから考えて、初期のヒト属と後期のアウストラロピテクス属も広範囲で交雑していた可能性がある」とホークス氏は指摘する。

 セディバ猿人が何者であるにせよ、その化石は他の場所から見つかっているより断片的な人骨の解釈に関して重要な警告を発している。

「モザイク状の骨格を有することが、この化石の最も重要な知見だ。このことは、ヒト属に似た特徴をもつ断片を見つけたとしても、骨格の残りの部分がヒト属に似ていない可能性もあることを示している」とホークス氏は言う。

 スミソニアン国立自然史博物館の古人類学者リック・ポッツ(Rick Potts)氏は、最初期のホモ属の化石はセディバ猿人の化石より数十万年も古いため、セディバ猿人がホモ属の起源とどう関わっているのかはわからないとしながらも、セディバ猿人が入り混じった特徴をもつことは「驚きに値する」と述べている。

 そしてそれがセディバ猿人の位置づけを非常に難しくしている。「現時点で明らかになっていることから判断して、セディバ猿人はヒト属誕生の前後数十万年の間に、進化が非常に実験的な面を発揮していたことを如実に物語る一例とみなすのが妥当だろう」とポッツ氏は話す。

 究極的には、セディバ猿人の位置づけは、「特徴全体が1つの形態学的パターンをなしており、セディバ猿人のような存在の人類の進化における位置づけを評価する上で重要なカギであるのか、それとも骨格の各部分にそれぞれ独立した特徴が見いだされたにすぎないのかという議論」にかかってくるとポッツ氏は言う。

 セディバ猿人は「(標本の)完全さにおいて非常に珍しい存在だ。化石人類の分類に再考を促し、人類の進化の系統樹にその位置を占めることになる可能性もある」。

 今回の研究成果は4月12日付で「Science」誌に発表された。

Photograph by Brent Stirton, National Geographic

文=Brian Switek

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