T・レックス、映画と実際の姿の違い

2013.04.10
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ティラノサウルス・レックスの骨格標本のシルエット。映画『ジュラシック・パーク』は、ティラノサウルスの実像に迫ったという点で最も優れた映画と言われている。しかし実際のティラノサウルスは、本当に映画に出てくるような恐竜だったのだろうか。

Photograph by Louie Psihoyos, Corbis
 白亜紀の恐竜の中でも最も知名度が高いティラノサウルス・レックス(T・レックス)は、大きさや凶暴性など、恐竜の特徴を最もわかりやすく体現した存在として人々の関心を引き続けており、絵画や映画にもたびたび登場してきた。 中でも、遺伝子操作によって復活したという設定で映画『ジュラシック・パーク』に登場したT・レックスが最も有名かもしれない。公開から20年の時が経過した現在、大型肉食恐竜としての恐ろしさはさらに増しているようだ。

◆驚異の“咬合力”

 T・レックスの特徴の中でも最も恐ろしく、格好の研究対象となっているのはその口だ。頑丈な頭蓋骨の下顎部分は奥行きが深く、ノコギリ状の分厚い歯が並んでおり、口に入れた物体を切り刻むことができるように進化している。

 2012年には、研究者のカール・ベイツ(Karl Bates)氏とピーター・フォーキンガム(Peter Falkingham)氏が、成体のT・レックスの咬合力(咬む力)は3万5000~5万7000ニュートンにおよぶとの調査結果を発表しており、陸生の捕食生物の中でも最強と推定されている。

 T・レックスがどのように獲物を捕食していたのかは、化石にその記録が残っている。獲物を仕留めた後や、食べられる死骸を見つけると、乱雑に食べ散らかすのではなく、慎重な動作で徐々に腹に収めていくという。2012年秋に開催された古脊椎動物学会の年次会合では、デンバー・ファウラー(Denver Fowler)氏のチームが、トリケラトプスの頭蓋骨にある歯形を手掛かりに、T・レックスは段階的に獲物を解体し、丁寧に食べていた形跡があるとの研究結果を発表している。

 獲物を捕食する際には、首の筋肉も大きな役割を果たしていたとみられている。エリック・スニベリー(Eric Snively)氏とアンソニー・ラッセル(Anthony Russell)氏が2007年に発表した捕食方法に関する研究では、かなり発達した首の筋肉で、約50キログラムの肉塊を約5メートル上空に放り投げてキャッチできたはずだと報告されている。これは「慣性フィーディング(inertial feeding)」という捕食方法で、舌が未発達の爬虫類などが、獲物を消化器官まで飲み込む技術だ。つまり、映画では咥えた獲物をイヌのように左右に振り回していたが、実際には空中に放り投げ、落ちてきた獲物を飲み込んでいたとみられている。

◆“咬みつき”の意味

 T・レックスの歯は、獲物の肉や骨を砕くためだけでなく、仲間同士での闘いでも有効だった。若いT・レックスの化石「ジェーン」の頭蓋骨に残る傷跡から、頭部に咬みつき、取っ組み合いをしていたことがわかっている。小さい前肢の筋肉もかなり発達しているが、争いには使わなかったとみられている。

 また、頭蓋骨に残る傷跡からは、古代の寄生虫に感染して命を落としたとみられる種もいる。滑らかな小さい穴がいくつも開いている下顎の骨が多く発見されており、当初は仲間同士の争いによる傷とみられていた。2009年、ウィスコンシン大学マディソン校のイワン・ウルフ氏のチームが、猛禽類の傷跡と同種で、極小の微生物によるとの研究結果を発表した。宿主のハトなどを捕食した猛禽類の上部消化管に寄生虫が住みつき、潰瘍や器官にダメージを与えた後、やがて骨に侵入して穴を開けるという。

 T・レックスも、恐竜からの感染経路で同種の寄生虫に感染していた可能性がある。争いの際に仲間の顔に咬みつくという行為は、こうした危険な寄生虫の感染経路となる。歯形が付いた骨の研究から、“共食い”で寄生虫感染していた可能性も判明している。他にも理由は考えられるが、T・レックス自身にとっても危険度の高い行動だったようだ。

◆本当のティラノサウルスの姿とは?

 能力を下方修正する研究結果も多く報告されているが、その恐ろしさには変わりがない。映画では怒り狂ったT・レックスが車を追いかけ回すという有名なシーンがあるが、実際にそのようなスピードで走ることができたのだろうか。研究者のジョン・ハチソン(John Hutchinson)氏のチームは否定的だ。

 逃げる車は時速約65キロ程度だが、T・レックスはそこまで速くない。ハチソン氏によると、映画の走るT・レックスは常にいずれか一方の脚が接地しており、時速16~25キロほどと推定できるという。骨格標本から推定されるスピードとほぼ一致しており、同氏の計算では、歩行速度は時速10キロほど、走れば時速24~40キロになる。最高で40キロというと物足りないかもしれないが、人間ならオリンピック選手級のスピードである。見通しの利く場所で追いかけられたら、まず逃げ切れないと考えていいだろう。

 ともかく現時点で、『ジュラシック・パーク』ほどT・レックスの正確な生態に迫った映画はない。「不確定な要素がある中で、かなり忠実に表現されていると思う」とハチソン氏は語っており、アメリカ、メリーランド大学の古生物学者トーマス・ホルツ氏も、「T・レックスの恐ろしさがかなり強調されているが、決して的外れではない」と同意している。「子育てや家族での狩り、獲物の身体に歯を突き刺して運ぶ捕食方法、獲物を追う際の素早い動きなど、シリーズ全体を通じて重要な特徴がうまく表現されている。古生物学関連の最新の調査結果と見比べても、ほとんど違和感がないと言えるだろう」。

 残念ながら獲物を追う姿を実際に目にすることはできないので、映画の描写がリアルかどうか確認する術はない。しかし、精妙な特殊効果が再現したT・レックスは、かなり実際に近いと言えるだろう。

Photograph by Louie Psihoyos, Corbis

文=Brian Switek

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