南極で海氷拡大、主因は棚氷の融解?

2013.04.02
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
“ペンギン・ハンティング”の合間に南極海の氷上で一休みするヒョウアザラシ。

Photograph by Paul Nicklen, National Geographic
 地球温暖化には“パラドックス”がある。 大気温と海水温の上昇に伴い、北極海の氷は急速かつ一様に減少している。コロラド州ボルダーにあるアメリカ国立雪氷データセンター(NSIDC)の調査によると、2012年には北極海の氷が大きく減少し、これまでの最小記録だった2007年の数値を「完全に」塗り替えたという。

 2012年の記録では、北極圏を覆う氷の面積は約410万平方キロまで減少した。これは1979年に人工衛星による観測を始めて以来、最小の数値である。

 ところが南極では、まったく別のシナリオが進んでいる。北極圏に比べて、海氷が風や波によって拡散されやすく動きの多い南極では、海を覆う氷の面積が拡大を続けているのだ。

 NSIDCの衛星データによると、昨年9月には南極大陸を囲む海氷の面積は観測史上最大の1944万平方キロを記録したという。

 過去の研究では、その原因を雪だと考えている。一般に、暖かい空気はより多くの水分を保持できることから、気温が上昇すると降水量も増加する。地球温暖化によって南極大陸でも気温が上昇しており、それに伴い降雪量が増えている。その結果、海洋の最上層では雪によって塩分濃度が薄まり、比重が軽くなる。通常ならば、海底から比較的温かい深層水が湧昇(ゆうしょう)してきて海氷を溶かすのだが、比重の軽い水が最上層に留まってしまうと、深層水の湧昇が阻まれる。

 このほど発表された最新の研究は、別の“戦犯”を名指ししている。棚氷の融解が原因だという。南極大陸を取り囲んでいる棚氷が気温の上昇によって崩壊すると、そこから溶け出した真水が、海洋の最上層にたまっていく。塩分濃度の低い冷たい水が最上層を覆ってしまうために、棚氷を溶かしていた温かな深層水の湧昇が阻まれてしまう。

 この研究は「地球温暖化によって局地的な冷却が起こりうることを示している。これは直感に反していて、多くの人は、全体を温めればすべての部分が温まると考えがちだ」と、研究を率いたオランダ王立気象研究所のリシャルト・ビンタニャ(Richard Bintanja)氏は言う。

 ビンタニャ氏はもう1つ、直感に反する指摘をしている。南極の気温の低下が海水面の上昇につながっている可能性があるというのだ。気温が下がると氷床に積もる雪の量が減るので、海洋中に留まる水の量が増えるのだという。

 1992年以降、極地の氷の減少によって海水面は地球全体で11.1ミリ上昇しており、現在も年に3.2ミリのペースで上昇を続けている。

◆氷の拡大の主因は棚氷?

 ビンタニャ氏らのチームによる南極の謎の研究の中では、定期的な観測の結果、南極海の最深部の水温が上昇しているとみられることも指摘されている。

 さらにこのチームでは、南極の棚氷の一部は深さが約1キロにも達しているとの調査を確認している。それゆえ温かな深層水が棚氷の最深部に接することも多く、そこから棚氷を溶かしてゆく。

 その結果溶け出した水は海水面近くまで上っていき、塩分濃度が低く比重が軽いために、最上層に冷たい水の層を形成する。これによって温かな深層水の上昇が阻まれるため、最上層の水はさらに冷たくなり、ますます多くの海氷が形成される、というのが、今回の研究からチームが導き出した仮説だ。

 気候モデルも同様の結果を示しており、チームの仮説が裏付けられたとビンタニャ氏は言う。

 それだけではない。チームは今回の仮説こそが、海氷の拡大の謎の最大の原因ではないかとい考えている。統計モデルによれば、そのほかの要因(降水量や風など)は海氷の拡大にせいぜい25%程度しか関係していないようだ。

◆「複雑な場所」

 NSIDCの科学者ウォルト・マイヤー(Walt Meier)氏は、今回の研究を「きわめて興味深い。これまで見たことのないものだ」と評価する。

 しかし棚氷の融解がすべての原因であるとするこの研究の主旨については、もう少し慎重に考えたいとマイヤー氏は言う。

 海氷は南極大陸のはるか沖でも確認でき、氷の面積が最大になる冬には、特にその距離が大きいとマイヤー氏は指摘する。

「氷が海岸線から遠く離れている場合は、棚氷の(溶けた)水が、(海氷の形成に)大きな影響を及ぼすとは考えにくい」とマイヤー氏は言う。棚氷の融解は、海氷の形成に「出だしのアドバンテージ」を与えるくらいの役割ではないかというのがマイヤー氏の考えだ。

 研究を率いたビンタニャ氏も譲らない。「私たちはこの仮説を気候モデルを使って検証した。融解水の影響は、たしかに海水面の氷にまで及んでいた」。

 ともかく、南極の風や気温や気候などのありとあらゆる“力学”が、事実の追究を難しくしているとマイヤー氏は言う。「複雑な場所なのだ」。

 ビンタニャ氏のチームによる今回の研究は、英国の科学誌「Nature Geoscience」オンライン版に3月31日付で掲載された。

Photograph by Paul Nicklen, National Geographic

文=Christine Dell'Amore

  • このエントリーをはてなブックマークに追加