◆巨木林の保護
伐採業者と自然保護活動家の対立は、2010年9月にターニングポイントを迎えた。タスマニア最大手の伐採業者であるガンズ社が、原生林の伐採から撤退したのである。その背景には、環境保護団体の不断の活動と、ウッドチップの世界的な価格下落があった。
2011年にはオーストラリアのジュリア・ギラード首相が、セイタカユーカリを含む、約40万ヘクタール以上の原生林を早急に保護する公約を発表。暫定保護区の生育能力と伐採業者への影響が評価されるまでの間、原生林を暫定的な保護下におく合意で、その後は区内での伐採が永久的に禁止される。
しかし、この合意は反故にされている。フロレンティン渓谷以外の生態系などが最も影響を受けやすい地区で、州政府管理下のデベロッパー、フォレストリー・タスマニアが国や州政府の許可の下、今も伐採を続けている。
しかし、国や州がどのよう政策に合意しようと、確かなことが1つある。タスマニアでは、巨木の保護政策が取られ、高さ85メートル、または体積280立方メートルを上回る樹木伐採が禁止されている。シレット氏によると、世界一体積が大きいセイタカユーカリは391立方メートルもあるという。
「この政策は始まりにすぎない」と、オーストラリア本土で教師を務めるブレット・ミフスッド(Brett Mifsud)氏は言う。巨木を研究する同氏は、約20年にわたって森林を調査してきた。「本当に必要なのは、巨木の周囲の原生林を守ることだ。さもなければ、風などが巨木に直撃して、伐採同様に枯死してしまう」。
ミフスッド氏が見つけた北アメリカ以外のセイタカユーカリは、120本以上に及び、その内60本以上をタスマニアで確認している。州都ホバート南部の渓谷でも、探索した1日だけで4本見つかった。幹回りが21.6メートルある巨木もあり、虚(うろ)は人が20人入れるほど大きかったという。
「巨木を守るためにも、そして願わくはその周囲の生態すべてを救うために、私たちは森林を探索し続ける」と同氏は語る。
Photograph by Bill Hatcher, National Geographic