世界のミイラでわかる古代の病気

2013.03.27
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ペルーで見つかった子どものミイラ。生まれつき心臓に欠陥があった。

Photography by Robyn Beck, AFP/Getty Images
 安息の地が質素な墓であれ、豪華な墓所であれ、人間の身体が時の流れを越えて原形を留めることはめったにない。しかし、遺体を丹念にミイラ化した場合や、極端な乾燥や高湿度などの環境条件が整うと、骨や肉が保存される場合もある。 現代では、こうした遺体をCTスキャン、MRI(核磁気共鳴画像法)、DNA鑑定などで調査し、古代人の生活や死因について興味深い知見を得ている。

 2011年、カイロにあるエジプト考古学博物館で52体のミイラを調査したところ、半数近くで動脈血栓症(動脈硬化)の症状が見つかった。心臓発作や脳卒中につながる疾患だ。暴飲暴食に運動不足? それとも慢性的な炎症? 王室の近親結婚による遺伝的要因も…。さまざまな要因が研究者の想像力をかき立てている。

 しかし、病気を抱えていたのは古代エジプト人だけではなかった。最近の研究で、4カ所の異なる地域で出土した、4000年以上にわたる137体のミイラをCTスキャンしたところ、その3分の1にも動脈血栓症が見られたという。

 研究チームは困惑したようだが、新たな興味も湧いてくる。古代人のミイラから、どのような病の歴史が判明しているのだろうか。 いくつか紐解いてみよう。

1. 数千年前からの長患い

 どこよりも多数のミイラが発掘された古代エジプトでは症例もたくさんある。

・ 約3500年前の成人のミイラ2体から採取した組織標本から、マラリアの原因となる寄生虫の最古のDNAが見つかった。

・ 約2250年前の高齢男性からは、転移性前立腺癌と一致する骨病変が見つかった。

・ 今月報告されたばかりの研究によると、エジプト南部のアスワン付近の墓地から出土した200体以上のミイラには、栄養不良のほか、ナイル川の汚染水の摂取による胃腸感染症の兆候が見られた。平均寿命は30年。地域の支配者のミイラがほとんどだが、それでも長くは生きられなかった。一般労働者たちの惨状が想像できる。

2. 止まらない咳

 結核は何千年も前から人間を苦しめてきた。現生人類に関する世界最古の症例は、イスラエル北部、ハイファ沿岸の水深9メートルの海底で発見された約9000年前の母子の遺骨だという。

3. 胃痛

 胃潰瘍はストレスが嵩じた現代病に非ず。原因となるバクテリア、ヘリコバクター・ピロリ菌が西暦1350年のメキシコのミイラから見つかっている。

4. 有害な金属

 16世紀のイタリア人男性のミイラからは、肝硬変の兆候が。亡くなったのが24歳の若さでは、長年の飲酒がたたったわけではない。ウィルソン病(体内に銅が蓄積して肝臓に影響を及ぼす遺伝病)だったと見られている。

5. 冷たい瘢痕(はんこん)

 天然痘のDNAが検出されたのは、シベリアで出土した300年前のミイラから。天然痘ウイルスは20世紀だけでも世界中で何億人もの人々を死に至らしめ、集中的なワクチン接種キャンペーンを経て、1977年にようやく根絶された。ミイラの感染症の遺伝情報は、過去の流行の研究に役立ったという。

6. 公衆衛生

 最後に、イギリスの中世の遺跡群から発掘された、2万3000体以上の骨格に関する大規模な研究成果を紹介しよう。

・ 現代でも控えるのが難しい砂糖は12世紀にイギリスにもたらされたが、やはり当時から虫歯が発生していたようだ。

・ しかし、“死後の歯科検診”でわかったのは悪いニュースだけではない。海辺に住む人々は虫歯が少なかったという。彼らはブラシやデンタルフロスで歯磨きしていたわけではなく、魚の豊富な食事のおかげで、フッ化物を高レベルで摂取していたのだ。現代人の多くは、フッ素入り歯磨き粉と水道水から同様の効果を得ている。長い間虫歯に苦しんできた祖先たちが知ったら、さぞうらやましがるに違いない。

Photography by Robyn Beck, AFP/Getty Images

文=A.R. Williams

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