野良ネコの殺処分を巡り新たな波紋

2013.03.22
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アメリカ、フロリダ半島南端沖に位置するフロリダ・キーズで、ボランティアに抱えられて避妊手術を待つ子どもの野良ネコたち。

Photograph by Melissa Farlow, National Geographic
 野良ネコの処置をめぐって、このところ活発な議論が交わされている。最近、安楽死による野良ネコの殺処分を訴えるコラムがアメリカの地方紙に掲載され、動物愛護団体などの間に新たな波紋が広がっている。 問題となっているのは、3月14日付けの「Orlando Sentinel」紙に掲載されたコラム。寄稿者は、アメリカの環境保護団体「全米オーデュボン協会」が発行する「Audubon Magazine」誌の元総合監修者テッド・ウィリアムズ(Ted Williams)氏だ。この中で同氏は、小鳥などの小型動物を襲うばかりか、トキソプラズマ症などの原虫感染症を媒介するとも言われている野良ネコは、捕獲して安楽死させるべきだとの持論を展開した。

 現在アメリカでは、8000万匹余の飼いネコがおり、戸外に生息する野良ネコも8000万匹を超える。

 しかも、小型の鳥や哺乳類が襲われる事例が後を絶たない。2013年1月、「Nature Communications」誌に発表された調査結果によれば、アメリカ本土だけでも年間で鳥が最大37億羽、哺乳類が69億~207億匹に上ると推定されている。

◆波紋呼ぶタイレノールによる殺処分

 ウィリアムズ氏が指摘したのは、解熱鎮痛剤タイレノールで安楽死させるという選択肢を、野良ネコの擁護派が奪っているという点だ。ペットに関する情報サイト「PetMD」によれば、誰もがお馴染みのタイレノールはネコにとって猛毒なのだという。

 オリジナルのSentinel紙のコラムでは既に表現が修正されているが、飼い主のいないペットの保護団体「Best Friends Animal Society」が運営するブログの投稿記事に、その個所の原文が引用されている。「トラップ・ニューター・リターン(TNR=捕獲し、避妊手術を施し、返すの意)に代わる、効果的かつ人道的な対処方法が2つある。1つはネコの殺処分薬として最適なタイレノールを使うこと。もう1つは捕獲して安楽死させること」。

 このうち、「Alley Cat Allies」をはじめとするさまざまな動物愛護団体から非難を招く原因となったのは、タイレノールに言及した点だ。Alley Cat AlliesはWebサイト上で、毒薬による殺処分は「残酷で配慮に欠けるだけでなく、そもそも違法だ」と主張している。

 アメリカでは動物虐待を禁止する法律が全50州で施行されているが、毒薬でネコを殺処分すればこれらの法律に違反することになる。Alley Cat Alliesのベッキー・ロビンソン(Becky Robinson)代表は、「どのような信条があるにせよ、問題の解決手段が残酷な方法であってはならない」と話す。

 だが、Sentinel紙の読者コメント欄には、ウィリアムズ氏本人のものと思われる次のようなコメントが投稿されている。「Alley Cat Alliesは、あたかも私がタイレノールで野良ネコを殺すよう世間に訴えているような言い方をしているが、私のコラムをちゃんと読んでいれば、そうではないことがわかるはずだ」。

 さらにこの投稿者は、「私はただ、TNR推進派のロビー団体による圧力のため、タイレノールが殺処分薬として認可されないという、調べればすぐにわかる事実を報告したまでだ」として、「野良ネコ対策事業の利権団体が作り上げた虚構」を批判している。

 全米オーデュボン協会は3月16日、総合監修者であるウィリアムズ氏との契約を一時停止し、発行人欄から名前を削除すると発表。同氏による監修作業は当面見合わせるという。

 同協会は次のようにコメントしている。「当誌は、フリーランスのライターとして活動するテッド・ウィリアムズ氏が個人の資格で、Sentinel紙にコラムを投稿したものと認識している。氏が当誌の立場を代弁しているかのような誤った印象を与えたことは、誠に遺憾である」。

◆求められる新たな野良ネコ対策

 ただし、かく言う協会も、「鳥たちが野良ネコの脅威にさらされているという問題の深刻さは十分認識している」という。「鳥など多くの野生動物が襲われるという事態には何らかの対策が必要だが、われわれはネコを傷つけたり毒殺したりという発想には断固として反対する」。

 全米オーデュボン協会は、「飼いネコと鳥の安全を図るためネコを屋外に出さないよう」飼い主に呼びかけるキャンペーンを長年に渡って支援している。

 動物の保護活動に取り組む「アメリカ人道協会(American Humane Association)」によると、野良ネコの平均寿命が3年であるのに対し、家ネコの寿命は平均15年にもなるという。

 もっとも、オーデュボン協会のキャンペーンについて前出のロビンソン氏は、「既に屋外にいるネコへの対策にはなっていない」と指摘する。

 今後、野良ネコ対策に関して、さらに良いアイデアが期待される。

Photograph by Melissa Farlow, National Geographic

文=Christine Dell'Amore

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