ネアンデルタール人、兎が狩れず絶滅?

2013.03.12
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ネアンデルタール人はウサギなどの小動物を狩る技術を身につけることはなかった。写真は現在のポルトガルに生息するウサギの群れ。枠内は、イスラエルのワディ・アムードで見つかったネアンデルタール人の頭骨。

Photographs by Duncan Usher, Alamy; (inset) Ira Block, National Geographic
 ウサギは小さくてすばしこく、捕まえるのはとても難しい。このことがネアンデルタール人に最悪の結果をもたらしたかもしれないことがわかった。 かつてヨーロッパ大陸に住んでいたネアンデルタール人は、約3万年前の中期旧石器時代に絶滅へと向かった。その一因が、大型哺乳類から野生のウサギなどの小動物へと、狩りの対象を変えられなかったことにあるとする研究結果が新たに発表された。

 今回の研究の主著者で、イギリスのダレル野生生物保護基金およびインペリアル・カレッジ・ロンドンに所属するジョン・ファ(John Fa)氏は、「ヒト族(ホミニン、現在の人類の祖先)にとってのウサギ肉の重要性について調べた研究は、これまでにもいくつかあった。しかし我々は、そこに新たな見解を付け加えた」と意義を語っている。

 ファ氏が率いる研究チームは、約5万年の期間を対象に、イベリア半島でネアンデルタール人および現生人類が居住していた場所に残っていた動物の骨を分析した。対象地域には現在で言うスペイン、ポルトガル、フランス南部が含まれている。

 その結果、居住場所からウサギの骨が見つかり始めるのは、約3万年前であることが判明した。これは現生人類がヨーロッパ大陸に最初に到達し、おそらくはそれと関連する形で、ネアンデルタール人が姿を消し始めた時期と一致する。

 この数千年の間に、気候変動、あるいはヒトによる狩猟圧によってイベリア半島におけるマンモスなどの大型哺乳類の個体数が減少し、代わってウサギが食料源として重要な位置を占めるようになったと、今回の論文では推測している。

 しかしこの論文の著者たちによれば、ネアンデルタール人はより小さな獲物への「狩りの対象の変更」ができなかった、あるいはその意志がなかったと考えられるという。

「ネアンデルタール人は大型哺乳類の狩猟に非常に長けていたが、はるかに小さいながら非常に豊富に存在したウサギを狩るのは難しかったのかもしれない」と、ファ氏は述べている。

 アメリカにあるニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の考古学者で、今回の研究に参加していないジョン・シェイ(John Shea)氏もこの見解に同意する。シェイ氏は、ウサギを狩ることの難しさは過小評価されがちだと指摘する。

◆狩りの道具がウサギ狩りに適さなかった?

 しかし現実では逆に、ネアンデルタール人にとってウサギを狩ることの費用対効果は低かったのではないかとシェイ氏はみている。

「(ネアンデルタール人のように)遭遇したマンモスを倒せるだけの技術を持っていれば、狩りのリスクは低く、リターンは大きい。これに対しウサギの場合は、狩りのコストは無視できるほど小さいが、リターンも非常に小さくなる」(シェイ氏)。

 ヨーロッパ大陸に住むネアンデルタール人は、柄付きの槍や棍棒を使っていたことが知られるが、これらの武器はウサギを捕まえるのには向いていなかった。対照的に、初期の現生人類は投げ槍、そしておそらくは弓矢など、複雑な投てき具を武器に使っていた。これらはいずれも、動きの速い小型の獲物を捕まえるのに適している。

 また、ネアンデルタール人はより筋肉質でがっちりした体形で、現生人類と違い、身体に合った衣服も身につけていなかった。そのため、生命を維持し、体温を保つために必要なカロリーも、現生人類の2倍に達していたのではないかと考えられている。

◆ウサギ狩りは女性や子どもの仕事?

 ファ氏をはじめとする研究チームはさらに、初期の現生人類において、ウサギを狩っていたのは、多くは女性や子どもではなかったかと推測している。こうした層は、男性がより大きな獲物を求めて狩猟の旅に出ている間、居住地に留まっていたとみられる。

 さらに太古のウサギ狩りには、現生人類のアフリカからの旅の途中で仲間に加わった四本足の動物、イヌも助けになっていたかもしれない。

 イヌの化石は最も古くて1万2000年前のものしか出土していないが、遺伝子レベルでみると、イヌがオオカミから分かれた時期は3万年前にさかのぼる可能性がある。これはちょうど、現生人類がヨーロッパに到達したころだ。

 ファ氏も「これはそうだったかもしれない、という仮定の話だ」としながらも、「狩猟目的のイヌの家畜化は、現生人類の狩猟者にとって非常に優位に働いた可能性がある」と指摘する。

◆なぜネアンデルタール人は適応できなかったのか?

 しかし、オハイオ州にあるケニヨン大学のブルース・ハーディ(Bruce Hardy)氏は、この説には納得がいかないという。「この研究のデータは非常に大まかなレベルで、論文の著者たちがそこから導き出した結論は、非常に率直に言って推論の域を出ないと思う」とハーディ氏は指摘する。同氏は今回の研究に参加していない。

 さらにハーディ氏は、数千年の猶予があったにもかかわらず、ネアンデルタール人が狩猟の戦術を変えられなかったというのは考えにくいと指摘する。あるいは植物など、ほかのものを食料とすることも可能だったはずだというのだ。「(ネアンデルタール人が)そこまで柔軟性に欠けるのなら、それまでの25万年をどうやって生き延びたのだろう?」と、ハーディ氏は疑問を投げかけている。

 これに対しファ氏は、ネアンデルタール人がこれだけ長い期間生存していたのは狩猟により手に入れていた大型哺乳類のおかげで、もはやこの習性を変えることはできなかったのではないか、と主張している。我々現生人類の近縁にあたるネアンデルタール人は狩りにあまりに特化していたため、獲物になるこうした哺乳類が姿を消したときに、適応が難しかったというわけだ。

 今回の研究論文は、「Journal of Human Evolution」誌の次号に掲載される。

Photographs by Duncan Usher, Alamy; (inset) Ira Block, National Geographic

文=Ker Than

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