イングランドとスコットランドで人工遺物を探すトレジャーハンターたちは、法律のおかげで考古学者と協力し合えるようになっている。ブース氏には、発見した遺物のその時点での市場価格、約65万ドル(約6100万円)が現金で支払われた。この価格は、王室債券徴収官(スコットランドにおける英国王室の代理人)により決定された。ブース氏はこれを発見場所の土地の所有者と分け合った。
イングランドとウェールズと北アイルランドでは、1996年に制定された財宝法(Treasure Act)により、300年以上前の金銀の遺物が財宝と定義され、王室の所有物とされる。発見した遺物は14日以内に届け出なければならない。スコットランドでは財宝の定義がもう少し広く、金銀以外のもの、300年前以後のものも含まれる。しかしどの行政区でも、重要な遺物が各博物館の間で競売にかけられるのは同じだ。
イギリスでは、考古学遺物の90%近くが、金属探知器を携えたアマチュアのトレジャーハンターにより発見されている。ロンドンにある大英博物館の動産遺物財宝部門の副責任者マイケル・ルイス氏は、このようなアマチュアの活動を「ランド・フィッシング」と呼ぶ。ルイス氏によると、財宝法のおかげで、トレジャーハンターたちも、発見場所の記録など、金属探知の現場で非常に望ましい行動を取るようになっているという。
◆財宝に関するアメリカの法律の遅れ
アメリカでは法律はどうなっているのだろうか。アメリカ考古学会の会長フレッド・リンプ(Fred Limp)氏によると、「連邦の所有地で見つかるものを除けば、基本的に各州の法律が適用され、一部の例外はあるものの、遺物は土地の所有者の所有物となる」ということだ。標準的な規則はなく、州によってやり方が異なる。
連邦法は厳密な規定を持つ。「石器は連邦政府の所有物である。石器の発掘は違法であり、重罪に問われることがある」とリンプ氏は説明する。私有地で見つかった同種の遺物が、州により、保護の対象になったりならなかったりする。
イギリスのやり方をアメリカでも導入するという考えはどうだろうか。
考古学的調査のコンサルティングを行うミシガン州のコモンウェルス・カルチュラル・リソーシズ・グループ(CCRG)に所属する考古学者クリス・エスペンシェイド(Chris Espenshade)氏は、「アメリカではうまくいかないだろう」と話す。「それは我々の文化に反する」。「これは私の所有物で、私はしたいようにする」という考え方と、アメリカ人の個人主義が、それ自体「立ち入り禁止」の標識になっている。
しかも「アメリカにはイギリスのような財宝がない。金属探知器を持ち出して大金になる代物を見つける人はあまりいない。ケルト人の黄金のブローチはない。見つかるのは鉛のミニエ弾(古い銃弾)だ」とエスペンシェイド氏は話す。
それでも、イギリスの法律が提供するような補償金があれば、発見者が何の見返りもなく財宝を手放さなければならないことに対する反発は弱まるとエスペンシェイド氏も認める。
◆イギリスの財宝法にも限界
イギリスの法律も完全ではない。網の目をすり抜ける重要遺物もある。有名なのはカンブリア地方で見つかったローマ時代の壮麗な青銅製ヘルメットで、2010年にクリスティーズで競売にかけられ、コレクターが360万ドル(当時約3億円)で落札した(青銅製の単品だったため、法的に「財宝」に相当しなかった)。
しかし、イギリスの法律は十分に機能しているように見える。「財宝法は、大切な遺物が最終的に博物館で万人に公開され、しかも発見者が見返りを得られるようにしているため、うまく働いている。発見者が正しいことをしやすくなっているのだ」と、大英博物館のルイス氏は話している。
Photograph courtesy Staffordshire County Council