バチカン、パウロ6世ホールの屋根を覆い尽くす、1000枚以上のソーラーパネル。太陽光発電だけで冷暖房と照明をまかなえるという。

Photograph by Andreas Solaro, AFP/Getty Images
 ローマ教皇ベネディクト16世が2月28日に退位した。3月中にコンクラーベ(教皇選挙会)が開かれ、新教皇が選出されるとシスティーナ礼拝堂の煙突から白煙が上がる段取りだ。ベネディクト16世は8年の在位期間に多くの異名を受けたが、最も意外なのは「緑の教皇」だろう。しかし、バチカン・ウォッチャーによると、環境問題への意識は一貫して高かったという。 環境問題に取り組んだローマ教皇は他にもいる。ヨハネ・パウロ2世は1990年、国際平和デーのスピーチに立ち、「神の創造物たる自然は守らなければならない」とカトリック教徒に訴えている。つまり、ベネディクト16世が就任する2005年以前から、環境保護はカトリック教会の重要な教義になっていたのだ。

 ベネディクト16世はさらに問題意識を高め、各国の指導者たちにも真剣に取り組むよう訴えかけた。2010年の国際平和デーのスピーチでは、「正義と平和を求めるなら、我々が暮らす環境を保護しなければならない」とアピール。その直後に発表されたローマ教皇庁立科学アカデミー(Pontifical Academy of Sciences)の気候変動レポートでは、二酸化炭素(CO2)排出量の削減、公害の抑制、気候変動がもたらす影響への対応が世界の指導者に提言された。

 ベネディクト16世は足下のバチカン国内でも環境問題に取り組み、パウロ6世ホールの屋根にソーラーパネルを設置するプランを承認。また、世界で唯一のカーボンニュートラル(CO2の排出と吸収がプラスマイナスゼロ)な国家を実現するため、ハンガリーの植林活動に出資してCO2排出枠を買い取る許可を国内の銀行に与えた。その数年後には、ハイブリッドの教皇専用車の導入も発表している。

 元執事の機密漏洩事件などで揺れたバチカンにとって、ベネディクト16世の環境活動は信用を回復する有効なPRになっただろう。ただし、一部のバチカン・ウォッチャーによると、そのような計算に基づく取り組みではなく、純粋な動機があったという。

「環境保護を目指す全米宗教パートナーシップ(National Religious Partnership for the Environment)」の顧問で、米国カトリック司教協議会(USCCB)の広報も務めたウォルター・グレイザー(Walter Grazer)氏は、「教皇は環境問題への関心が非常に高かった。個人的にも大きなテーマだったのだろう」と述べている。

 在位期間中にCO2排出問題に関する世界会議が何度か開催されたが、ベネディクト16世は参加しなかった。小国の元首という立場では、外交的な影響力を発揮できないからだ。しかし、自国の利益優先で交わされる環境問題の議論に対し、倫理的視点から意見を述べることもあったという。省エネ電球への交換や野生動物の生息地保護は金銭的なメリットが目的ではなく、宗教上の義務だと考えていたようだ。

 イエズス会の司祭でアメリカ、ジョージタウン大学ウッドストック神学センター(Woodstock Theological Center)の上級研究員トム・リーズ(Tom Reese)氏は、「環境も神の創造物と考え、教会は保護活動を支持している。活動家たちも教会が同志と気付き始めたようだ」と話す。

 しかし、環境活動への支持は宗教的な理由だけではない。気候変動が人々、特に社会的弱者の生活に及ぼす影響も懸念されている。バチカンのアメリカ支部であるUSCCBは昨年、「環境問題への対応を誤れば、世界中の貧困層や弱者の困窮が一層深刻化する」という声明を発表した。

 ベネディクト16世も同じ考え方で、「最大の被害者は、大量の温室効果ガスを排出する国々ではない。海面上昇や破壊的な暴風雨、水不足などに苦しむ貧しい人たちだ」と何度か公言している。グレイザー氏によると、環境破壊が最貧層に及ぼす影響を本当に心配していたという。

Photograph by Andreas Solaro, AFP/Getty Images

文=Daniel Stone