ティラノサウルス・レックスに襲われるカモノハシ恐竜(想像図)。

Illustration courtesy Robert DePalma
 カモノハシ恐竜として知られる草食恐竜、ハドロサウルスの顔の骨や皮膚の化石に、ティラノサウルス・レックスに襲われた際に負ったとみられる傷が見つかった。傷が治癒した恐竜の化石は前例がないという。 また、恐竜の皮膚の治癒力は、現生の爬虫類と非常によく似ていることも明らかになった。

 この化石は、アメリカ、サウスダコタ州ヘルクリークで出土。6500万~6700万年前に生息していたハドロサウルス亜科の1種、エドモントサウルス・アネクテンス(Edmontosaurus annectens)の成体だ。

 皮膚の化石は12×14センチほどの涙滴型で、骨と一緒に見つかった。右眼の上にあたる部位とみられ、卵型の傷跡がある。

 共同研究者の1人、カンザス大学とノースイースト・オハイオ医科大学で内科教授を務めるブルース・ロスチャイルド(Bruce Rothschild)氏は、「古傷だとすぐにわかった」と話す。

◆凶暴な捕食者

 さらに、頭蓋骨にも傷跡が残っていた。ロスチャイルド氏ともう1人の共同研究者のロバート・デパルマ(Robert DePalma)氏は、その大きさと形状からティラノサウルス・レックスに襲われた跡と推測している。デパルマ氏はフロリダ州にあるパームビーチ自然史博物館(Palm Beach Museum of Natural History)の古生物学者だ。

 確固たる証拠はまだないが、皮膚と頭蓋骨の傷跡は同じ攻撃で負った可能性が高いという。

 また、イグアナなど現生の爬虫類の傷跡と比較したところ、そのパターンがほぼ一致しているとわかった。

 カンザス大学生物多様性研究所(Biodiversity Institute)の古生物学者デイビッド・バーナム(David Burnham)氏は、「恐竜と爬虫類は遠い親戚にあたる。傷跡が似ていても不思議ではない」と指摘する。

◆食うか食われるか

 カナダのパイプストーン・クリーク恐竜イニシアチブ(Pipestone Creek Dinosaur Initiative)の古生物学者フィル・ベル(Phil Bell)氏は、「保存状態が非常に良く、傷跡がはっきりと残っている」と驚く。

 しかし、捕食者に襲われて負った傷かどうかは不明だという。大きさが比較的小さく、落下など何らかのアクシデントで負った可能性もある。「しかし頭蓋骨の傷跡は、ティラノサウルスによる咬傷の可能性が高い」。

 傷跡が残る恐竜の化石は珍しくないが治った形跡がない。死後に腐肉食動物が付けたと考えられている。

「争いやアクシデントを含めて、このような傷を負った恐竜はざらにいただろう」とベル氏は推測する。「食うか食われるかの時代だ。エドモントサウルスは巨大で獰猛な捕食者に襲われはしたが、幸運にも生き残ったようだ」。

◆どうやって逃げたのか

 しかし、ティラノサウルスからどのように逃れたのかは謎だ。カモノハシ恐竜が無力だった訳ではない。体長は9メートルほどあり、重い尾で敵を追い払い足で蹴飛ばすなど、身を守る術は備えていたとみられる。

 さらに俊敏さも兼ね備えていた。「非常に強靱な筋肉を持ち、距離を置けばそう容易く捕まることはなかっただろう」。また、群れの仲間に助けられた可能性もある。あるいは、襲ったティラノサウルスが未成熟だったとも考えられるという。

「こうした謎を解き明かすことが古生物学の面白さだ」とカンザス大学のバーナム氏は語る。

 今回の研究結果は、「Cretaceous Research」誌オンライン版に2月12日付けで発表された。

Illustration courtesy Robert DePalma

文=Ker Than