ヨザルが示す愛の神秘

2013.01.15
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エクアドルのヤスニ国立公園、木のくぼみから顔をのぞかせるヨザル。

Photograph by Tim Laman, National Geographic
 南アメリカの熱帯雨林に住む小さなヨザルは、「愛」の原型ともいえる感情的な絆を示す。 ヨザルは毎日をバレンタインデーのように暮らしている。1匹のオスと1匹のメスができる限り一緒にくっついて過ごし、浮気もなければ、「離婚」もない。人間界であれば、極めて珍しい関係だ。

 ただし、時には、パートナーを見つけられなかった若い成人のヨザル(「フローター(漂う者)」と呼ばれる)が、既に成立しているカップルに戦いを挑み、恋敵を追い出すことがあるという。

 最新の研究によると、無理やり新しくペアを組んだヨザルのカップルは、一度も分断しなかったカップルに比べて、産む子どもの数が少ないことが判明した。研究チームのリーダーでアメリカ、ペンシルバニア州フィラデルフィアにあるペンシルバニア大学の生物人類学者エドゥアルド・フェルナンデス・ドゥケ(Eduardo Fernandez-Duque)氏は次のように話す。

「今回の研究は、ヨザルにとって一夫一婦の絆がいかに大切かを示しており、同時に、人間の愛がどのように進化してきたのかを理解する上でも重要な手掛かりとなる」。

◆楽園の中の争い

 哺乳類の中で一夫一婦制を採るのはおよそ5%にすぎず、人間など、子育てに両方の親を必要とする特殊なケースでなければ、この仕組みは生まれない。

 ヨザルの場合、子どもが生まれたあと、子育てのほとんどを父親が担い、母親は授乳だけを担当する。

 だが2003年、アルゼンチンのチャコ地域を調査していたフェルナンデス・ドゥケ氏の研究チームは、楽園ともいえる理想的な一夫一婦のヨザル社会において、フローターが問題を引き起こしていることを初めて発見した。

 およそ20年にわたり18グループ、総計150匹以上のヨザルを観察した結果、無傷のカップルは、分断されたカップルに比べて、出産する子どもの数が25%多いことがわかった。

 分断され、追放されたヨザルは、通常は傷だらけで、命を落とすケースも多い。

 また、無理やり引き離されるのでない限り、互いに誠実であり続け、浮気はしないこともあらためて確認された。

◆愛の化学反応

 分断を経験したカップルの産む子どもの数が少ない理由は、正確には判明していないが、フェルナンデス・ドゥケ氏は、「感情的な要素が影響しているだろう」と語る。

「人間でも、男性と女性がお互いを知り、深い関係を築くには時間がかかる。ヨザルのフローターが無理やり新しい関係を築く際には、交配に至るまでに通常よりもおよそ1年長くかかっている」。

 アメリカ、ジョージア州アトランタにあるエモリー大学の行動神経科学者ラリー・ヤング(Larry Young)氏は、今回の研究を受けて次のように話す。「ヨザルなど、一夫一婦制の動物が示すカップルの絆は、人間のカップルが示す“愛”の進化的祖先といえるだろう」。

 ヤング氏は、一夫一婦制のプレーリーハタネズミを主な対象に、愛や感情の脳内化学反応を研究しており、「人間の愛は人間の高度な脳に基づく豊かな感情だが、その感情の基礎にある部分は、2匹のプレーリーハタネズミの間に絆を生み出す神経メカニズムと非常によく似ている」という。

 例えば、パートナーを失ったプレーリーハタネズミは、抑うつ症状を示し、危機的状況から逃げ出す意志さえ失ってしまう。

 ヤング氏によると、脳は愛情を生み出すメカニズムを進化させたという。人間でも動物でも、親密な相手と接すると分泌されるオキシトシンと、明るい気分や幸福感をつかさどるドーパミンという2つの脳内物質によって、愛情が促される。

「“恋はすばらしきもの”であることは否定しないが、実際には脳内化学物質を組み合わせた結果だ」。

 今回の研究結果は、オンラインジャーナル「PLOS ONE」に1月23日付けで掲載されている。

Photograph by Tim Laman, National Geographic

文=Brian Switek

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