馬肉偽装問題、食文化を考える契機に

2013.01.13
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
オランダの精肉店の店先。さまざまな部位や形状の馬肉が売られている。

Photograph by Bram Budel, Hollandse Hoogte/Redux
 ヨーロッパは今、馬肉の話題で持ち切りのようだ。先頃、牛肉100%と表示された加工食品の一部に、さまざまな比率で馬肉が混入していることが発覚して、一大スキャンダルとなっている。馬肉混入の疑いのある食品には、バーガーキング社のハンバーガーや、市販の冷凍ラザニアも含まれている。 中には、牛肉として売られているのに、中身は100%馬肉だった事例まである。

 ベジタリアンにとっても肉食系の人々にも、このスキャンダルはショッキングだったようだ。バーガーキング社は渦中の食肉加工業者との取引を停止したと報じられた。冷凍食品のフィンダス社も、イギリスとフランスで冷凍ラザニアを小売店から回収した。シェパーズパイやムサカも同様に姿を消した。

 豚、鶏、牛は当たり前に食べるという人でも、馬を食べるのには言いようのない抵抗感がある。

 ただ、この感覚はアメリカやイギリスなど、世界の一部の地域でしか通じないものらしい。馬肉が牛肉に偽装された問題が最初に表面化したイギリスでは、馬は一般に、人類の穏やかな友で、気高いアスリートだと考えられている。多くのアメリカ人にとっても、おそらくこの感覚は共通している。ケンタッキー・ダービーの熱狂や、馬を題材にした映画や小説を思い起こしてほしい。小説『黒馬物語』や映画『シービスケット』の主人公たちを食べるなんて考えられない、と感じる人がほとんどと言って間違いないだろう。

 だが、世界の多くの地域では、馬肉は当たり前に口にされている。そこに後ろめたさはない。

◆馬肉を食べる文化圏

 例えば、地中海に浮かぶサルデーニャ島の郷土料理には、広く馬肉が使われている。ロバの肉も同様だ。

 馬肉を好むのは、ヨーロッパでサルデーニャ島だけではない。オランダでは一部の精肉店で馬肉が購入可能だし、フランスでも口にされている。一般的に普及した食習慣ではないものの、馬肉の通販サイトも存在し、グリル、ロースト、煮込みといった目的別にカットされた馬肉を購入できる。

 国連食糧農業機関(FAO)の試算によると、世界で最も多くの馬肉を消費している国は中国だ。

 中国では馬肉を乾燥させてソーセージにする。馬肉食が特に一般的なのは南部の広西チワン族自治区で、米粉の麺とともに供される。

 世界第2位の馬肉の消費国は、FAOの試算によるとカザフスタンだ。ここでは馬肉は食生活に欠かせないものとなっている。さまざまなソーセージが作られているほか、マントゥという餃子のようなものにも使われる。

 ロシア、メキシコ、モンゴル、アルゼンチン、日本などの国々も、馬肉の消費量が多い。

◆何の肉かではなく、偽装自体が問題?

 そもそも、馬肉はどんな味がするのだろうか。フードライターのウェイバリー・ルート(Waverley Root)氏はかつて、「甘さが口の中に残る。口に合わないわけではないが、肉だと思うと戸惑う」と評している。

「人類による馬肉食を推進する」という目的を掲げたブログ「Eat Horse」では、この食材の健康上のメリットが喧伝されている。低脂肪、低コレステロールで、鉄分を豊富に含むのだとか。

 ロサンゼルス生まれで食の歴史を研究しているアンドリュー・F・スミス(Andrew F. Smith)氏は、アメリカ人としては珍しく、一方的な判断を避ける立場だ。

「馬肉を食べることの何が問題なのか?」とスミス氏は問いかける。スミス氏によれば、ヨーロッパでの今回の騒動の真の問題は、原材料について消費者に嘘の情報が伝えられたことだ。

 馬肉食の是非についてのスミス氏の立場はこうだ。「どの動物を食べていいかは、私たちが決めたことだ。私たちの決めた(食べていい)条件は、ほかの国では通用しない場合がある」。

Photograph by Bram Budel, Hollandse Hoogte/Redux

文=Catherine Zuckerman

  • このエントリーをはてなブックマークに追加