◆シェイクスピアの創作
甥を手にかけて王座を奪うなど、劇作家シェイクスピアはイギリス文学でも極めて残忍な人物として描いた。芝居は不滅の名台詞で幕を開ける。「いまや不満の冬は去り、ヨーク家の太陽によって輝かしい夏が訪れた」。最期を迎えることになる戦場で落馬、「馬をくれ、馬を! 代わりに王国をくれてやる」と叫んだ王の末期は、世界中の学生におなじみだ。
◆ハンサムな悪魔
リチャード3世の心は邪悪だったかもしれないが、顔立ちは整っていた。発見された頭蓋骨にコンピューター・モデリングで肉付けした樹脂製の模型が、2月5日に公開されている。
◆舞台や映画
ジョン・バリモア(1929年)からローレンス・オリビエ(1955年)、ピーター・セラーズ(1965年)、ケビン・スペイシー(2012年)まで、大物俳優たちが劇場や映画でリチャード3世を演じてきた。
◆高貴な人物らしからぬ扱い
意外な展開の話には、誰もが興味をそそられるものだ。死後の王や女王は、壮麗な場所に葬られるのが習い。ウェストミンスター寺院にある、エリザベス1世の墓を思い浮かべてみるといい。決して駐車場の下などではない。
◆地元の関心
博士号の取得者から16歳で学校を辞めた人まで、イギリス人は自国の歴史をよく知っており、考古学的な発見のニュースに注目している。余暇を発掘作業のボランティアに当てる人も多い。筆者はある夏、イングランドの都市ミルトン・キーンズで、中世の遺物の発掘作業を行った(現在は駐車場になっている)。週末、先のとがったコテで地面を掘る私の横にいたのは、看護師のジューンさん、救急車の運転手リチャードさん、れんが職人アンドリューさんだ。
◆沸騰する論争
このニュースは真面目な科学ではなくホラ話じゃないのか? 歴史を書き換えるほどの発見なのだろうか? 悪評だらけの人物の復権につながるのか? DNA鑑定の確実性は? これらの疑問に対し、プロジェクトに参加するレスター大学の遺伝学者トゥーリ・キング(Turi King)氏は、発見の詳細を論文審査のある学術誌で発表すると約束している。
◆埋葬をめぐる争い
ヨークとレスターの両都市が遺骨の引き取りを希望している。どこで安らかに眠ることになるのだろう?
イギリスの考古学者たちは勢いに乗っている。次は9世紀にさかのぼり、アルフレッド大王を探す計画だ。大王ゆかりの古都にあるウィンチェスター大学は、地元教会の無名の墓に目を付け、調査の承認を申請している。
ただし、年代が合う骨が見つかったとしても、DNAの照合は難航するかもしれない。1100年以上前から家系図をたどり、存命の血族を探し当てる必要があるからだ。しかし、もし幸運に恵まれれば、今夏にも成果が発表される可能性がある。
Photograph by Justin Tallis, AFP/Getty Images