アメリカ、マサチューセッツ州で地中から顔を出したトウブモグラ。

Photograph by Ken Thomas, Science Source/Photo Researchers
 モグラは視力が非常に悪いが、鼻でにおいを“ステレオ処理”してカバーしている事実が明らかになった。 人間を含むほとんどの哺乳類の目と耳は、物体を立体的にとらえている。

 一方、ごく一部の哺乳類には、においを立体的に把握する能力がある。各鼻孔が互いに独立して機能し、脳に異なる信号を送信。脳内で信号が処理され、においの方向が決定されるというメカニズムだ。

 ラットを使用した過去の研究では、訓練すればにおいが左側と右側のどちらから来たか判断できるようになると証明されている。今回のモグラによる研究は、哺乳類がこの能力を通常の捕食活動で利用していることを初めて示した。

 生物学者のケネス・カターニア(Kenneth Catania)氏はトウブモグラを調査。各鼻孔に入ったにおいの強さのわずかな違いを区別できる能力を活用し、エサを見つけていると明らかにした。

「この結果は予想外だった。それぞれの鼻孔は非常に近接しており、においの区別が可能だとは思わなかった」とアメリカ、テネシー州ナッシュビルのヴァンダービルト大学に所属する同氏は述べている。

◆モグラの鼻孔の実験

 カターニア氏は実験の1つで、円形のケースを利用。半円状にエサ用のくぼみが並んでおり、刻んだミミズを毎回異なるくぼみに入れた。モグラがにおいを嗅ぐ際の気圧変化を検出できるよう、ケースは一時的に密封した。

 部屋に入れられたモグラはまず空気を嗅ぎ、5秒と経たないうちにミミズが入っているくぼみに狙いを定めた。「鼻を小刻みに動かすと、一直線にエサへと向かった」と同氏は振り返る。

 別の実験では、小さなプラスチック製のチューブで片方の鼻孔をふさいだ。左の鼻孔をふさいだ場合、モグラの進路は常に右にそれ、右の鼻孔では左にそれた。

 この結果は、1979年に行われたメンフクロウの聴力に関する画期的な研究と驚くほど似ている。一方の耳をふさいだところ、音源の位置を間違えたという。

 カターニア氏はさらに、両方の鼻孔に小さなプラスチック製チューブを挿入、交差させた。つまり、右の鼻孔には左側の空気、左の鼻孔には右側の空気が入る仕組みである。モグラは混乱した様子で、あちこちを繰り返し探し回った。

 鼻孔をふさいだり、チューブを交差させたりした場合でも、エサを見つけるまでの時間は長くなったが、しばらくして何とかたどり着いた。モグラがエサを探す際には、においの立体的な処理だけに頼っていないからだと同氏は考えている。

 モグラは、異なる場所のにおいを同時に嗅ぎ取り、それぞれの強さを比較して、より強いにおいを発する場所へと向かう。これは、人間を含むほとんどの哺乳類で見られる習性である。

◆敵との遭遇回避にも有効

 インド、バンガロールにある国立生命科学研究センターのウピンダー・バーラ(Upinder Bhalla)氏によると、立体的な嗅覚能力は、迅速な意思決定が求められる動物に有用という。

「2回ではなく1回嗅ぐだけでネコのいる方向を特定できれば、生き延びる確率は高くなる」と同氏はメールでコメントしている。

 このような嗅覚能力は、私たちを含め、哺乳類の間では非常に一般的であるとバーラ氏は推測している。例えば、カリフォルニア大学バークレー校の神経科学者ノーム・ソベル(Noam Sobel)氏が2010年に実施した研究では、人間も両方の鼻孔を使用してにおいの発生源を特定すると示唆されている。ただし人間の場合、この能力を使えるのは実験などで用意された特殊な環境のみのようだ。

「哺乳類の大部分を占める、においへの依存が強い動物は、すべてこの能力を備えているのは間違いないと思う」とバーラ氏は語る。

 今回の研究を実施したカターニア氏は、他の多くの哺乳類が立体的に嗅ぎ取る能力を保持していることには同意するが、「人間に関しては非常に疑わしい。この能力は備わっていない可能性が高い」と話している。

 研究の詳細は「Nature Communications」誌に2月5日付けで発表された。

Photograph by Ken Thomas, Science Source/Photo Researchers

文=Ker Than