“裏切り者”が生き延びる粘菌の世界

2013.01.11
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粘菌の1種、キイロタマホコリカビ(学名:Dictyostelium discoideum)。細胞が集まり、「スラッグ」と呼ばれる多細胞体になることがある。

Photograph from Carolina Biological Supply/Visuals Unlimited
 最新の研究によると、粘菌の世界では「裏切り者が栄える」のだという。 世界各地の温暖な地域に生息する粘菌の1種、キイロタマホコリカビ(学名:Dictyostelium discoideum)は、特異なライフサイクルをたどる。研究チームのリーダーでイギリスにあるオックスフォード大学のロレンツォ・サントレッリ(Lorenzo Santorelli)氏は、「一生のほとんどを“シングル”として過ごし、とりとめもなく細菌を食べて生活している」と話す。

 しかし、食料が乏しくなると、変異種も含めて多数の細胞が集合し、「スラッグ」(ナメクジの意)と呼ぶ移動体に姿を変える。その後は、「子実体」と呼ばれるキノコのような形になる。上部は胞子の集まりで、それを下から柄(え)が支える構造だ。

 ところが、スラッグが子実体に変わる際、全細胞のおよそ20%が死ぬ必要がある。柄に分化した側は、遺伝子を受け渡すために自らを犠牲にするのだ。残りの80%は生き続け、胞子となる。

 サントレッリ氏の研究チームは世界で初めて、「キイロタマホコリカビの世界では、変異種の方が通常種よりも生き残る能力が高い」ことを示した。

 変異種は通常種が胞子になるのを抑え、柄細胞として命をささげるように仕向けていた。一方、変異種の方は、通常種と比べて、柄に分化するよりも胞子になる場合が多かった。つまり想定される妥当な割合よりも、多くの“裏切り者”が生き延びていたのだ。

◆健康な“裏切り者”

 研究チームは、変異種と通常種を混合する実験を行い、より多くの裏切り者が生き延びることを明らかにした。

「それほど驚く結果ではない」とサントレッリ氏は話す。「どの生物においても協働関係は脆いものだ。なんとか自分に有利に運ぼうとする。それが自然だ」。

「ただし通常なら、裏切り者が出ると最終的に協働関係そのものが崩壊する。だが、キイロタマホコリカビは違う。裏切り者がいるからこそ、すべてがうまくいくように進化しているようだ」。

 また、裏切り者は協力的な個体よりも脆弱なのが普通だが、キイロタマホコリカビの場合は極めて健康的だという。

 研究チームは今後の課題として、裏切り者が成功するメカニズムを探りたいとしている。「ちっぽけな粘菌が、生物の協働関係の進化的・遺伝的基盤を明らかにしてくれるかもしれない」とサントレッリ氏は話す。

「何といっても、粘菌は驚くべき生物だからね」。

 今回の研究結果は、オンラインジャーナル「BMC Evolutionary Biology」に1月9日付けで掲載されている。

Photograph from Carolina Biological Supply/Visuals Unlimited

文=Christine Dell'Amore

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