サメの胚、“フリーズ”して身を守る

2013.01.10
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卵嚢で発育中のサメの胚。

Photograph by David Fleetham, Visuals Unlimited
 サメの幼生には、生まれたときから身を守り、獲物を捕まえる機能がすべて備わっている。しかし卵生のサメが産み付けた卵嚢(らんのう)で発育中の胚は、やはり捕食動物に狙われやすい。胚の段階で敵を探知できれば望みはあるが、新たな研究がその可能性を示している。しかも、食べられないように“死んだふり”をしているという。 どんな生物でも弱い電流を放っているが、サメは頭部や目の周囲に並ぶ小さな穴の列(ロレンチーニ器官)でごくわずかな電流も感知できる。一部の種は、この能力を使って海底に埋まった獲物を見つけている。

 ハナカケトラザメ(学名:Scyliorhinus canicula)とサメの近縁であるガンギエイの1種(学名:Raja eglanteria)に関する2つの研究で、幼生時代に似たような“フリーズ行動”が確認されていた。今回、西オーストラリア大学の博士課程に在籍する生物学者ライアン・ケンプスター(Ryan Kempster)氏の研究で、さらに詳細に分析された。

 ケンプスター氏の当初の目的は、サメ除け装置の開発だった。サメが電界にどのように反応するか知るため、胚の利用を決断したという。「何度も反応を調べる必要があるから、野外での調査は難しい。毎回同じサメに協力してもらうわけにもいかない。胚なら1つの卵嚢に何個も入っているので利用しやすい」。

◆“フリーズ”して身を隠す

 ケンプスター氏はイヌザメ(学名:Chiloscyllium punctatum)11匹の胚を入手し、捕食動物の弱い電界を再現して反応を調べた。

 すると、発育の後期に達したすべての胚が電界に反応した。エラの動き(呼吸)を止め、尾を体に巻きつけて凍ったように動かなくなる。

 ちなみにイヌザメの胚は、尾を振動させて卵嚢に海水を出し入れしている。その動きで匂いが発生し、小さな水流ができるため、位置が露呈する。呼吸によるエラの動きでも電界が発生するため、捕食動物はそれを利用して探知するという。

◆電気を利用した保護対策

 ケンプスター氏のチームではさらに、胚が電界の信号を記憶する時間は40分以内と突き止めた。特に2回目以降は、最初よりも反応が弱くなる。

「電界を利用したサメ除け装置もあるので、この発見は重要だ。サメが慣れないように、20~30分単位で電流を変化させる必要がある」。

 ケンプスター氏は電界を利用して人間の安全を守るだけでなく、サメも保護したいと思い描いている。サメの個体数は、ここ数十年間で減少傾向にあるからだ。他の魚を狙った定置網や延縄(はえなわ)に巻き込まれる“混獲”も原因のひとつだ。

 2006年の調査の推定によると、スペイン沿岸の延縄漁船に引き揚げられた魚のうち、重量の70%相当がサメだった。2007年の報告では、アフリカ南部沿岸で毎年800万匹のサメが網にかかっているという。「効果的な対策を考案できれば、混獲を減らせるだろう」と同氏は話している。

 今回の研究結果は、オンライン科学誌「PLOS ONE」に1月9日付けで発表された。

Photograph by David Fleetham, Visuals Unlimited

文=Jane J. Lee

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