垂直距離にして実に30メートルもの区間を登る場合もあり、人間がマラソンを走破するに等しい運動量となる。しかしサウスカロライナ州にあるクレムゾン大学の進化生物学者リチャード・ブロブ(Richard Blob)氏によると、このような生態を獲得するに至った進化過程については解明されていなかったという。
しかしブロブ氏のチームはこのほど、その運動メカニズムが藻類を食べるときと同じだと突き止めた。
研究のためにまず捕獲を試みたブロブ氏のチームだが、それは簡単ではなかった。ウェットスーツを着て急流の中を近づくと、様子を観察していたノピリが急に逃げてしまうこともあったという。「魚の気持ちをあまり勘ぐっても仕方ないとは思うが、まるで馬鹿にされているような気になったよ」と、同氏は冗談交じりに話した。
なんとか捕獲した個体は、ハワイの野外実験室に移された。藻類で覆われた透明なガラス板上でエサを食べる様子と、水が流れる仮想的な滝を登る様子をビデオカメラで撮影。「あの様子じゃ、庭の散水ホースでも登ってしまうかも」とブロブ氏。
動画を分析したところ、2つの動作で運動メカニズムが共通していることが判明したという。例えば、上顎の前部が突き出る距離と角度は、どちらもほとんど一致していた。
ブロブ氏らは、この魚が進化過程のある時点で、特定の動作を別の目的に応用したのではないかと考えた。進化生物学では「外適応」と呼ばれる現象で、生物が「ある器官や動作を通常とはまったく別の目的で使用すること」を指す。
外適応の好例としては、鳥類の羽根が挙げられる。「鳥類の羽根は、もともとは断熱器官として発達し、それが後に進化の過程で外適応を果たして飛行に使用されるようになったという説もある」。
滝登りとエサを食べる動作のどちらが先に出現したのかはいまだ不明だが、結果としてきわめて適応力の高い魚が生まれた。
「これほどうまく生息環境に適応した魚の存在は、まさに驚きに値する」とブロブ氏は語った。
今回の研究結果は、オンライン科学誌「PLOS ONE」に1月4日付けで掲載されている。
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