イヌの癒しの力、銃乱射事件の町で発揮

2012.12.25
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コネチカット州ニュータウンに住むリリー・ウィリンガーちゃん(2歳)のもとを、セラピー犬のゴールデン・レトリバー「リビー」が訪れた。

Photograph by David Goldman, AP
 1人の男の子が、やさしい顔をしたゴールデン・レトリバーに心を許し、あの日、教室で起こったできごとを話しかけている。男の子はその話を両親にも打ち明けることができなかったという。今月、コネチカット州ニュータウンのサンディフック小学校で起きた銃乱射事件のことだ。 事件以来、口が利けなくなっていた別の女の子も、この”癒し犬”をかわいがったあと、ようやく母親と話し始めた。10代の子どもたちのグループは床に座り、みんなで1匹のイヌをなでながら、それぞれの不安と悲しみを口に出し始めた。

 12月14日のあの恐ろしい乱射事件では、20人の子どもと6人の学校職員が亡くなった。それからすぐに、専門的な癒しの訓練を受けたセラピー犬がニュータウンの町に連れてこられた。

 やって来たのは、ティム・ヘツナー(Tim Hetzner)氏が率いるルーテル教会チャリティーズK9コンフォート・ドッグズ・チームの9匹のゴールデン・レトリバーとボランティアのドッグハンドラーたちだ。

 K9チームはこの数日、地元のルーテル教会を拠点に町の学校やほかの教会、公共施設、個人の家などを回っている。チームは要請のあった場所にしか出向かない。また、イヌを怖がる人やアレルギーの人がいることを考え、イヌの方から人に近寄らせるのではなく、人に近づいてきてもらうよう気を配っている。

◆毛皮を着たカウンセラー

 イヌたちはとても好評だとヘツナー氏は話す。「子どもたちは多くの場合、イヌに向かって直接話す。イヌは毛皮を着たカウンセラーのようなものだ。人の話に耳を傾ける優れたスキルを持っている。加えて彼らは、無条件の愛を示す。人を批評したり言い返したりしないのだ」。

 K9チームのイヌは、自然災害の被災者を力づけるためにも働いている。最近ではハリケーン「サンディ」の被災地で活動した。介護施設の入居者の暮らしに彩りを添える役にも立っている。

 ボランティアのドッグハンドラーたちの主な仕事は、イヌが疲れ切らないようにすることだ。2時間ほどセラピーで働いたら休憩を入れ、ボールで遊んだり、昼寝を取らせたりする。ハンドラーの中には、カウンセリングや、聖職者としてのアドバイザーの経験を持つ者もいるが、「ハンドラーの訓練では、黙っていることを学ぶことこそが、一番大切な部分だ」とヘツナー氏は話す。

「危機的な状況に出会ったときに人がよく犯す間違いは、何か答えやアドバイスのようなものを与えなければいけないと感じてしまうことだと思う。本当は、傷ついている人に必要なのは、ただ自分の気持ちを表に出すことなのだ」。

◆人間とイヌの絆

 イヌをなでているとなぜ気持ちが楽になるのだろう。それは、イヌがかわいらしいからだけではないとアメリカ、デューク大学犬類認知センターの所長ブライアン・ヘア(Brian Hare)氏は言う。

 人間とイヌの絆は数千年の歴史を持つ。人間が集団で定住生活を始めたときから、イヌの祖先となったオオカミは、おいしいゴミを出してくれる場所として、集落に引き寄せられてきた。オオカミたちにとって、その食べ物が人間の近くで暮らす有利な条件となった。ヘア氏によると、攻撃性の薄いオオカミほど人の近くでうまく暮らせたため、彼らは本質的には時間をかけて自ら家畜化したのだという。

 イヌがほかの動物と異なる珍しい点の1つは、一般に外来者恐怖、つまり見知らぬものに対する不安を示さないことだとヘア氏は指摘する。「この点について研究を行った結果、大半のイヌは、外来者恐怖をまったく示さないだけでなく、実際のところ外来者愛好症であることがわかった。要するに、見知らぬものが大好きなのだ。こうした面ではイヌは人間より”優れている”と言える。人間は必ずしもそこまで初めての相手に友好的ではない」。

 イヌとの触れ合いには効果がある。イヌをなでるだけで、ストレスホルモンのレベルが低下し、呼吸が落ち着き、血圧が低下する。また、オキシトシンという絆や愛着に関係するホルモンが、イヌの体内でも人間の体内でも分泌されることがわかっている。

◆犬に共感能力はあるのか?

 ほぼすべての犬が、泣いている人に寄ってきて、鼻面をこすりつけたり、なめたりした。それは犬の飼い主でも知らない人でも同じだった。一方、ただ変な声を出すだけの人には、ほとんど注意を向けなかった。

「犬に共感能力がある決定的な証拠だと言うつもりはないが、少なくとも、なぜ人が、犬に共感能力があると考えようとするかは、はっきりと理解できる」。

 悲しみにくれる人のもとに犬を派遣するという発想は単純すぎるのではないかと言う人もいるかもしれないが、単純さこそが人間と犬との結びつきをこれほど強くしている一因なのだとカスタンス氏は話す。

「人間が人間に愛情を示すとき、そこには期待や判断が関わって非常に複雑な事態がある。しかし犬との触れ合いはごく単純で、厄介なことがなく、何の結果も生み出さない。つらい時を過ごしている人には、そういう関係が好ましいのだ」。

Photograph by David Goldman, AP

文=Amanda Fiegl

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