水は再生可能な資源と考えられてきた。どれだけ水を浪費しようと、雨が降れば河川や貯水池はまた満たされる。干ばつの期間を除けば、表流水についてはその通りかもしれない。だが、過剰取水によって河川が干上がり、世界的に地下水への依存が増えてきている。井戸を掘りくみ上げた地下水の多くは、雨や雪が何千年もの歳月をかけて地下に浸透し、岩石の隙間に溜まった限りある資源なのだ。
その巨大な水の蓄積が、地下に溜まるよりもはるかに速いペースでくみ上げられている。地下水位は急激に低下し、さらに井戸が深く掘られ、大きな電動ポンプが唸りを上げる。しかし、現在盛んに消費されている地下水は、次世代に受け継ぐべき遺産にほかならない。
◆農業利用の増大
地下水の枯渇問題は圧倒的に農業が負っている。世界の水の3分の2が作物栽培に回り、乾燥して水ストレス(水需給が逼迫している状態)が高い地域などは、90%にも及ぶ場合がある。
しかし、いつまでもこの状況を続けることはできない。中国有数の穀倉地帯である華北平原では、地下水位が1年あたり1メートル以上低下している。
水不足によって食糧を自給できず、他の国の水資源で育てられた作物の輸入に追い込まれる国も増加。しかし、食糧という間接的な形で水を輸出できる国は減る一方だ。輸出国でも水資源が枯渇すれば、世界的な食糧危機は避けられない。
また、多発する塩水化や水質汚染は、枯渇以前の問題ととらえられる。飲料水の地下水依存率が高いインドでは、一部の地域で骨のフッ素症が蔓延している。飲用水を汚染する、高濃度のフッ化物が原因だ。
「地下水位の低下は、持続可能な水利用が実現されていないことを示すサインだ。稼ぐあてもなく、貯金を切り崩しているにすぎない。地下水は大切に使い、次世代から奪うべきではない」と、ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)の淡水戦略担当のブライアン・リヒター氏は指摘する。
◆ソリューションを求めて
何よりも農業に焦点を当てた研究が進んでいる。小量の水で育つ新しい農作物の開発などだ。
また、水不足が進んでいるにも関わらず、低い調達コストのため浪費されているケースが多い。実際に作物に必要な水はわずかなのに、世界の農家の多くが農地に大量の水をまいて灌漑している。地下に浸透して繰り返し資源として利用できる部分もあるが、大半はそのまま蒸発してしまう。
無駄を防ぐ1つの解決策としては、点滴灌漑が有効になるだろう。農地全体に配水パイプを張り巡らせて、根に近い土壌表面に直接ゆっくり灌漑水を与える。この方法ならば、次世代に禍根を残さずに済むかもしれない。
今や水の枯渇は世界共通の問題だ。国連環境計画(UNEP)によると、世界で最も水不足に悩む地域はガザ地区であるという。イスラエルとエジプトに挟まれた地中海沿いのパレスチナ自治区で、いま唯一の水供給源が失われつつある。
河川が流れぬガザ地区には、海水の淡水化を行う資金もない。約170万人の住民は飲料水を地下水に依存している。しかし、地下水の回復スピードの約3倍の勢いで揚水されているため、水位は急激に低下、海水が帯水層に浸入する事態となった。国際連合は2012年、ガザの地下水は2016年までに飲用に適さなくなる恐れがあると警告している。
水問題が先鋭化したガザは、他にも多数の問題を抱えているが、これは世界へ向けた警鐘と言えるだろう。このまま水資源を使い続けたら、子どもや孫の時代にはどうなるか。ガザの行く末に世界の注目が集まっている。
Photograph by Findlay Kember, AFP/Getty Images