プロングホーンの移動用に陸橋を建設

2012.12.05
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アメリカ、ワイオミング州で国道191号線を横切るプロングホーン。

Photograph courtesy Joe Riis
 アメリカ、ワイオミング州パインデールの西で、車道を横切るプロングホーン(エダツノレイヨウ、写真)。同州西部のグランド・ティートン国立公園から越冬地まで、約270キロを南に大移動する途中だ。その経路には、川、フェンス、険しい山道、私有地、エネルギー開発など、さまざまな障害が立ちはだかる。最近、最も危険な場所がこの国道191号線だ。 ここは地理的にも、有史以前の昔から移動の難所だった。2本の川が合流しボトルネックを形成、しかも私有地でその半分が遮られており、幅2キロほどの狭い土地に追い込まれる。人間も油断できない。付近の遺跡で発掘された炭焼き跡や骨が、7000年前から狩猟の対象だった事実を示している。19世紀には、ロッキー山脈を徘徊していたマウンテンマン(罠猟師)の交易所(ランデブー)が存在し、一帯は「トラッパーズポイント(Trappers’ Point)」と呼ばれている。時代は下り、毎年春と秋、ハイウェイが数千頭のプロングホーンとミュールジカの行く手を遮るようになった。

 最近では、乗用車やトラックだけでなく付近の天然ガス田から来るトレーラーが時速100キロ以上で疾走、間を縫って渡るのも命がけだ。国道191号線は、I-80(州間高速道路80号線)とワイオミング州北西部のジャクソンホールを結ぶ主要道路で、両側には野生動物を遮る有刺鉄線のフェンスが張られている。しかし毎年、長さ19キロの国道沿いで、平均140頭のプロングホーンとミュールジカが最期を遂げているという。野生動物と衝突すれば負傷や死亡事故に繋がりかねず、ドライバーにとっても危険な状況だ。

◆トンネルと陸橋の建設

 その対策として、動物移動用のトンネルが建設された。地下道を建設したワイオミング州のハイウェイでは、シカをはじめとする野生動物の交通事故死亡率が80%以上激減。しかし、驚異的な視力と俊足を備えたプロングホーンは、暗くて見通しが悪い地下道を嫌う。別の対策が必要となった。

 そこで、ハイウェイを安全に横断できるようにプロングホーン用の陸橋が建設された。今から言えば一種の賭けで、建設しても通ってくれるかは誰もわからなかったが、願いは通じたようだ。野生生物写真家でナショナル ジオグラフィック青少年探検家のジョー・リース(Joe Riis)氏によると、プロングホーンはどうすればよいかをわかっていた。トラッパーズポイントに来ると、高さ約2.4メートルのフェンスに沿って陸橋に進み、全速力で駆け抜けると、また越冬地に向かって南に走っていった。

 連邦政府の補助金をアテに出来なかったワイオミング州運輸局(Wyoming Department of Transportation)は、トラッパーズポイントを含む2本の陸橋、6本の野生動物用地下道、さらに国道191号線の両側に設置した約19キロのフェンスに、総額約970万ドル(約8億円)の予算を組んだ。今後10年あまりのプロジェクトだが、自動車事故の防止やシカやアンテロープ(レイヨウ)など野生動物が命を奪われずに済むことを考えれば、決して高くはないだろう。

◆陸上を移動する動物の危機

 野生動物の生息地が開発によって減少し、貯水池などのインフラや住宅地の拡大で渡りの経路が遮断されている。特に、長距離移動は世界中で消滅寸前だ。ワイオミング州西部に生息するプロングホーンは、毎年約270キロ移動する。西半球の陸生動物では特に長い方だが、新しいフェンスや私有地、エネルギー開発などで寸断の危機にある。イエローストーン圏生態系(Greater Yellowstone Ecosystem)では、既に昔からの移動経路8カ所のうち6カ所が遮断され、通過して越冬地にたどり着けなくなっている。

 グランド・ティートン国立公園からグリーンリバー盆地までの移動経路は多数の地方にまたがり、特に多様な開発の対象になりやすい。

 リース氏とライターのエミリン・オストリンド(Emilene Ostlind)氏は、2年の歳月をかけてプロングホーンの大移動を記事にまとめた。移動経路の保護へ支持が集まればという願いからだ。かつては走行する車をかわしながらハイウェイを横断しなければならなかったが、今は広い陸橋の上を駆け抜けている。橋以外にも、移動経路を存続させるために過去10年以上さまざまな取り組みが行われてきた。

 リース氏は、プロングホーンが初めて橋を渡る瞬間をカメラに収めるため、トラッパーズポイントを再び訪れた。橋を渡る姿を撮影した上空写真やクローズアップ写真は、このプロジェクトの重要性を如実に物語る。「橋が機能している様を皆に伝えたかった。他の地域で同様の問題に取り組んでいる人の参考になるかもしれない。他の場所にも広がっていけば、道路橋も当たり前になるだろう」とリース氏は期待する。

 2011年12月発行の「High Country News」誌の表紙を飾った同氏らの特集記事「Perilous Passages(危険な道のり)」は、米国サイエンスライター協会(National Association of Science Writers)の2012年度「社会の中の科学(Science in Society)」賞と「ナイト・リッサー西洋環境ジャーナリズム賞(Knight-Risser Prize for environmental journalism in the West)」を受賞した。

Photograph courtesy Joe Riis

文=Emilene Ostlind

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