ファラオを描いた最古の岩絵を再発見

2012.11.30
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
エジプトのナイル川付近、アスワン北西で再発見された古代の岩絵。「タブロー7a」と呼ばれるこの岩絵の幅は約3メートル。この地域の村名にちなんだ岩絵群、ナグ・エルハンドゥラブの中では最大である。

Photograph courtesy Hendrickx/Darnell/Gatto, Antiquity
 エジプト南部、アスワン北西のナグ・エルハンドゥラブ(Nag el-Hamdulab)で、5000年以上前のエジプト第1王朝のものと見られる岩絵が再発見された。初めて出土したのは1世紀以上も前になるが、以降その存在はほぼ完全に忘れ去られていた。今回の調査では、ファラオが描かれた最古の岩絵の可能性が出てきている。 岩絵は同国南部の都市アスワンから北西にある砂漠にそびえ立つ岩石に刻まれており、およそ紀元前3200~3100年の間に描かれたとみられる。

 当時、北部と南部のエジプトは最高君主、すなわちファラオの支配の下で統一されていた。描かれているファラオは、南部の支配に抵抗する北部を制圧した王で、エジプト第1王朝の創始者と考えられているナルメル(Narmer)とみられる。

 これらの岩絵のユニークさを研究者が認識するまでには長い時間がかかった。ナグ・エルハンドゥラブの遺跡は、まず1890年代にイギリスの学者が発見。岩絵のスケッチ数点を発表したものの、その重要性には気付かなかった。1960年代には撮影した学者もいたが、自身の調査結果を発表していない。ようやく日の目を見たのは、ノルウェーの研究チームが2つの岩絵を再発見した2009年。アメリカ、イェール大学の考古学者マリア・ガット(Maria Gatto)氏も、ほどなく他の絵を探し当てることになる。

◆王権の強化を示す描写の変化

「タブロー7a」と名付けられた岩絵(写真)の中央に位置する王は、エジプト南部の王政の象徴、ボーリングのピン状の「白冠(ヘジェト)」をかぶり、長い王笏を手にしている。王の前には2人の従者が規則正しく行進し、大きなうちわを持った1人の従者が背後から風を送っている。また、足元にはとがった耳を持つハウンド種のようなイヌが控える。さらに周囲では、髭を生やした男性が支配関係を意味する大型船をロープで引く姿も描かれている。

 初期のエジプトの壁画では、王そのものではなく王族の紋章や神の力を描く傾向があったと、研究に参加したイェール大学のジョン・ダーネル(John Darnell)氏は話す。例えば雄牛や鷹の絵は多くの場合、王を表すものとされていた。人間の支配者は小さかったり、端に描かれたりと、それほど価値がないかのような扱いだった。

 今回のように、王が支配的な立場として明確に描かれている絵は初めてとなる。「芸術的にも文字どおりの意味でも、エジプト王朝誕生の驚くべき描写だ」と同氏は述べる。

 共同研究者のガット氏によると、描写の変化は当時の王権の移り変わりを反映しているという。「一般人とは異なり、特別な力を持っていたようだ。人々と超自然的存在とを仲立ちする神のような存在だったのだろう」。

 タブロー7aには権力と地位を示す5隻の船が描かれている。王家の船に相応しい三日月形または動物の紋章が4隻に施され、神殿が載る1隻はその神聖さを表す。「船はエジプトの統一以前から権力を示す重要なシンボルだった」とガット氏は語る。太陽神は船に乗って天空を巡ると信じられていており、その化身であるファラオも同様に死後の世界へ向かうと考えられていた。

 船団を組む岩絵と碑文から、2年に1度ファラオが王国全土を巡る「ホルスの行幸」の様子と推測される。天空と太陽の神ホルスの化身とされていたファラオは家臣らと共に、壮麗に仕立てた船列でナイル川を航行しながら税金を徴収して回った。「一種の政治的な示威活動の先駆けと言える」と同氏は指摘する。「大勢でやって来る豪華な一行に、ナイル川沿いの小さな集落に暮らす住民たちは圧倒されたことだろう」。

◆遺跡保護の必要性

 岩絵は、いずれも不毛な砂漠地帯に隣接している。昔から孤立した険しい場所にも関わらず、破壊の手から免れることはできなかった。故意に削られたり、人の名前と“1960”という年を表す数字が約5000年前の岩絵に彫られていた例もある。

 今回再発見された岩絵の今後について、研究者らは懸念の色を隠せない。ナグ・エルハンドゥラブは監視員が2人体制で見張っているが、人口の多いナイル川東岸と西岸を結ぶ橋が建設され、ここ15年ほどで周辺には人が多く出入りするようになった。

「岩絵の破壊は非常に残念。数十年前まではほぼ完全な状態で保存されていたのに。重要な遺跡なので、保護・保存する態勢を早急に整える必要がある」とガット氏は訴える。

 今回の研究結果は、「Antiquity」誌12月号に発表されている。

Photograph courtesy Hendrickx/Darnell/Gatto, Antiquity
  • このエントリーをはてなブックマークに追加