試掘に失敗、キューバの石油事情

2012.11.20
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中国で建造された自走式海洋掘削リグ「Scarabeo 9」(シンガポールで撮影)。アメリカ製の部品がほとんど使用されていないので、禁輸措置に抵触せずにキューバの海域でも操業できるという。

Photograph from Keppel Offshore and Marine/Reuters
 キューバの沖合で試掘を行っていたハイテク石油掘削リグは、生産可能な石油資源が見つからなかったため作業を中断、11月14日にキューバを離れた。今後はブラジル、またはアフリカに移転されるという。イデオロギーの面から長年の仇敵アメリカに頼らずに海洋エネルギー資源の確保を目指す同国にとって、短期間の運用とはいえこの掘削リグが希望となるはずだった。 今年、キューバが海底油田の試掘に失敗したのは3度目で、海洋での掘削作業を中断することになった。今月届いたこのニュースは、フロリダ州に多い反カストロ派のキューバ系アメリカ人にとっては朗報だったのかもしれない。フロリダ海峡(アメリカの沿岸部から約113キロの沖合)での石油流出の危険性や、掘削の成功が、長らくキューバの最高指導者に君臨する“独裁者”フィデル・カストロと弟のラウル・カストロ(フィデルの後継者)の影響力に寄与するという懸念もあったためだ。

「石油資源による収益を利用して圧政を敷こうとするカストロ政権の取り組みは失敗に終わった」と、フロリダ州選出の共和党下院議員として下院外交委員長を務めるイリアナ・ロス・レイティネン(Ileana Ros-Lehtinen)氏は語る。

 だが、掘削作業の頓挫で、キューバのエネルギー自給の野望が潰えてしまうわけではない。しかし、2012年2月には半世紀を迎えるアメリカの禁輸措置が自国経済を締め付けている中、国内消費量のおよそ半分足らずの石油産出量を増やす選択肢も限られてくる。

 キューバにとっては変革の時期となる可能性があるが、専門家の間では、海底油田開発の失敗を受けたカストロ政権が、ベネズエラの左翼政権に対する依存度を高めるとみられている。実際キューバの原油消費量の半分は、ベネズエラが格安で提供してくれる原油で賄われている。そのためキューバは、アメリカの技術に頼らず独力でエネルギー資源を確保する取り組みを今後も続けていくはずだが、それには多大な困難とリスクが予想される。

◆莫大なコストの埋め合わせ

 今回試掘に使用されたScarabeo 9は、キューバのエネルギー事情の複雑さの象徴と言える。7億5000万ドル(約600億円)が投じられたこの掘削リグは、今年は主にフロリダ海峡とメキシコ湾で運用される。アメリカの禁輸措置に抵触せずにキューバ海域で運用可能な、世界で唯一の石油掘削プラットフォームだ。この分野での技術力はアメリカが群を抜いており、同国製の部品を10%未満に抑えて掘削リグを構築することは非常に難しい。Scarabeo 9の場合、アメリカ製の部品は噴出防止装置だけだという。

 イタリアのサイペン(Saipem)社が中国で建造、シンガポールで完成したScarabeo 9は、多大なコストを伴う形でキューバに移転された。「地球の裏側まで航行させる手間を考えてみて欲しい」と、キューバの原油産業に詳しいネブラスカ大学のジョナサン・ベンジャミン・アルバラード(Jonathan Benjamin-Alvarado)教授は話す。「これが油田掘削のコストを増大させることとなった」。

 この半潜水型海洋掘削装置のリース料は1日50万ドル(約4000万円)。3カ国の3社が交代でキューバでの掘削作業を行った。まず5月には、スペインの石油大手レプソル(Repsol)社が試みたが見込み無しと判明。6月に引き継いだマレーシアのペトロナス(Petronas)社も、やはり成果を上げられなかった。そして11月2日、キューバの共産党紙「Granma」が伝えるところによると、ベネズエラの国営企業ペトロレオス(Petroleos de Venezuela)社の掘削作業も失敗に終わった。

 本来ならハズレを引くことはそうないはずだが、キューバでは特殊な政治的事情が状況に影を落としている。ベンジャミン・アルバラード教授によると以前、油田が見つかった実績もあるという。巨大な宝の山は期待できないとしても、その付近を当たればある程度の産出量を見込める可能性は高い。ところが各社はそれぞれまったく異なる海域を選んで掘削を行った。「おそらく、禁輸措置の影響でこれまでに要した莫大なコストを一気に埋めるために、“大きな一発”を狙っているからだろう」とアルバラード氏は言う。「アメリカの思惑通りだ。禁輸措置が続く限り、キューバの油田開発に明るい陽射しは訪れないだろう」。

Photograph from Keppel Offshore and Marine/Reuters

文=David LaGesse

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