4方向から見ると、南アフリカで見つかった石器は槍のような形状をしていた。

Image courtesy Jayne Wilkins
 一部の初期人類は、これまで考えられていたよりも賢く、高い殺傷能力を持っていた可能性がある。最新研究によると、世界最古のものかもしれない石槍が見つかったという。その年代測定が正確ならば、ヒトの祖先は槍の先端に石をつける技術を50万年前には獲得していたことになる。これは、従来考えられていたより約25万年早い。 これまで確認された中で世界最古の槍頭がホモ・ハイデルベルゲンシス(原人の一種)の遺跡から見つかることは、「ローマ帝国の遺跡からiPodが見つかるようなものだ。それほど奇妙なことだ」と古人類学者のジョン・シア(John Shea)氏は言う。シア氏は今回の研究には参加していない。

 とはいえ、現在の南アフリカに当たる地域で、がっしりとした体格を持ち、大きな獲物を狩っていたホモ・ハイデルベルゲンシスが石器を使用しており、さらには木の柄を持つ槍まで作っていたと考えるのは、特に奇妙なことではない。しかしこれまでは、彼らが石器と木の柄を組み合わせる知識を持っていた証拠は見つかっていなかった。

 刃に柄をとりつける技術を着柄(ちゃくへい)といい、これを行うために、先史時代のハンターはおそらく石の刃と木の棒、植物繊維か動物の体の腱で作った撚(よ)り糸、樹脂で作った接着剤を手に入れる必要があった。接着の作業自体も、樹脂を融かすために火を扱う技術を必要とした可能性があると、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のシア氏は述べる。当時の“職人”は、上記の材料を組み合わせて丈夫な槍を作る必要があった。「さもないと槍を初めてアフリカスイギュウに使うときに自分が殺されてしまう」。

◆技術と言語

 しかし、着柄は行う価値のある作業だった。先端に石器をつけた槍は「より大きなダメージを与え、より多くの出血を引き起こすため、それだけ早く獲物を殺すことが可能になる」と、今回の研究の主著者であるトロント大学の人類学者ジェーン・ウィルキンズ(Jayne Wilkins)氏は述べる。

 狩りの効率を高める石槍の存在は、「食糧としての肉がより確実に、かつ定期的に入手可能になることを意味する」とウィルキンズ氏は言う。食べる肉の量が増えることで、ヒトの脳のサイズは増大したと考えられている。サイズの増大は単に脳の組織が増えたというだけでなく、知能も向上させた可能性があるとウィルキンズ氏は述べる。着柄を行うには事前の計画が必要だ。「実際に武器を使って狩りができるようになるまでには、何日も前から計画を立てなくてはならない」。さらには、仲間たちにも同じやり方を教えたいと考えた場合、そこにはおそらく会話が必要になる。

 前出のシア氏は、着柄の技術に会話が介在していたことは「疑問の余地がない」と話す。「おそらく身振り手振りで教えられることではないだろう。非常に複雑な技術のため、絶対に、確実に、言語が必要だ」。

 ホモ・ハイデルベルゲンシスが言語を持っていた可能性があるというのは、彼らがネアンデルタール人とわれわれホモ・サピエンスの共通の祖先のうち、知られている中では最後の種だとされていることを考慮すれば、さほど意外な発想ではないかもしれない。「われわれは言語を持っている。ネアンデルタール人もおそらく持っていた。(中略)ならば両者に共通する最後の祖先が言語を持っていたとしても不思議ではない」とシア氏は言う。

◆仮説の実証

 今回、最古の槍の穂先とされた石器は、基部にその痕跡があり、先端部にも衝撃による剥離痕がみられるもので、1980年代に南アフリカのカラハリ砂漠にあるカサパン1遺跡で発掘された。しかし、石器が見つかった堆積物の年代測定が可能になったのは、2010年になってからのことだ。

 とはいえ、そのときもまだ「石器がどんな機能を持っていたのかはわからなかった」と研究を指揮したウィルキンズ氏は言う。「後の時代に槍の穂先として使われた石器とよく似てはいたが、切ったり削ったりする道具だった可能性も考えられた。これが実際に槍の穂先だったことを確認する必要があった」。

 そこで研究チームはカサパン1遺跡から見つかった石器の複製を作り、それを死んだスプリングボック(アンテロープの仲間)の体に突き刺した。コンピューター解析の結果、先史時代の槍の穂先も、今回の石器の複製も、同様のダメージを与えたことが明らかになった。

◆なお残る年代の謎

 しかし、この石槍の年代については、今なお議論が交わされている。本当に50万年前のものなら、なぜ後に続く時代の遺跡からも見つかっていないのだろうか? シア氏によると、50万年前と25万年前の間の時代にも考古学的に多くの発見がなされている。しかし、その時代に石槍は見つかっていない。

 公平を期するために言っておくと、カサパン1遺跡の年代測定は容易ではない。そもそも、この遺跡に使える年代測定法があまり多くないと、研究の共著者であるトロント大学の原始考古学者マイケル・チャザン(Michael Chazan)氏は言う。

 研究チームは、石器に隣接して見つかったシマウマの歯を、電子スピン共鳴法という年代測定法を用いて約50万年前のものと測定した。それから石器周囲の堆積物の年代を、光ルミネッセンス法を用いて測定した。これは試料が最後に日光を浴びてからの時間を測定する方法だ。しかし、これは比較的新しい技法であり、年代の測定値が遺跡の地質学的背景に関する前提に左右されることは研究チームも認めている。

 おそらく、今回の石槍の驚くべき年代予想を補強する唯一の方法は、既に年代が特定されている他の遺跡から同様の武器を発見することだというのは、チャザン氏もシア氏も見解を同じくするところだ。

 シア氏は来年、自身の研究チームで東アフリカに赴き、カサパン1遺跡とは無関係のプロジェクトの実地調査をナショナル ジオグラフィック協会の支援で行う予定だが、そのときに探してみるつもりだという。「同じようなものが見つかるか調べてみたい」とシア氏は述べている。

 今回の研究は、「Science」誌11月16日号に発表された。

Image courtesy Jayne Wilkins

文=Ker Than