人のへその生物多様性、熱帯雨林のよう

2012.11.15
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人間のへそに生息するバクテリアの例。枯草菌(左)と表皮ブドウ球菌。

Images courtesy of Belly Button Diversity
「へそを見つめる」といっても、内気で下ばかり向いていることのたとえではない。“プロの目”で人間のへそを探求しようというのだ。ロブ・ダン(Rob Dunn)氏ら生態学者チームが60人のボランティアからサンプルを集め、人間のへそに生息する微生物を調査した。 その結果、人間のへそはまるで熱帯雨林のようだったという。

 ことの始まりは2年前、ある学部生の思いつきだった。生物学研究室に所属する人間らしく、クリスマスカード用に同僚のへそに生息する細菌を採取するというそのアイデアに、ノースカロライナ州立大学(NCSU)の研究チームが目をつけた。同チームは市民参加の科学研究に重点を置き始めたところだった。

 一般の人々に科学に興味を持ってもらう手段として、彼らの皮膚の上に広がる豊かな生態系を見せるというのは名案だ。「しかもへそというのが馬鹿げていて、たいていの人を引きつける」とダン氏は話す。加えて、へそはしっかり洗われることの少ない部分であるため、現代人の体の表面の微生物相を、可能な限り手つかずの状態で調べるチャンスでもあった。

 そこで2011年初め、研究チームは非営利組織ScienceOnline主催のサイエンスコミュニケーター会議とノースカロライナ自然科学博物館に出向いて“採取活動”を行った。あきれながらも研究に興味を示してくれた人々に、綿棒を手渡してサンプルを提供してもらったのだ。60人分のサンプルを集めたチームは研究室に戻り、そこから見つかった細菌の遺伝子構造を調べた。

 これが「ベリーボタン・バイオディバーシティ(へその生物多様性)」プロジェクトの始まりだ。

◆ジャングルへようこそ

 調査の結果、60人のへそから2368種の細菌が見つかり、そのうち1458種は新発見の可能性があるという。

 細菌は少ない人では29種、多い人では107種もいたが、平均では約67種が見つかった。92%の細菌種は、サンプル提供者全体の10%足らずにしか存在しなかった。これはすなわち、ほとんどの細菌種が60人中1人からしか見つからなかったことを意味する。

 例えば、あるサイエンスライターからは、これまで日本の土壌でしか発見例のない細菌と思しき種が見つかったが、この人物は日本への渡航歴はなかった。そのほか、数年間へそを洗っていないというかぐわしい人物からは、いわゆる極限環境微生物2種が見つかった。通常は氷冠や熱水噴出孔などの過酷な環境に生息するものだ。

 このように多様性に富んだ細菌が見つかったが、調査結果からは特定の傾向も浮かび上がった。すべての被験者に共通して見つかった菌が1つもない一方で、8種の菌はサンプル提供者の70%以上に見つかったのだ。そして見つかった場合、それらは決まって大量に存在した。

「この点において、へそは熱帯雨林とよく似ている」とダン氏は述べる。熱帯雨林は1つ1つが異なる植物相を持つが、どの熱帯雨林にも共通して豊富に存在する樹種がいくつかあるのだという。「人体に熱帯雨林に似た部分があるというのは、個人的にはとても素晴らしいことだと思う」とダン氏は言う。

◆大規模な調査

 しかし、人体に生息する細菌の種類を推測することは、最初の一歩に過ぎない。得た知識を役立てるには、これらの細菌種がなぜそこで見つかったのかを理解する必要がある。

 ダン氏のチームは既に、より多くの人のへそを調べる作業に入っており、間もなくその数は600人に達する。チームは新たなサンプルを使って、へそに生息する細菌がサンプル提供者の出生地や免疫系などとどのように関連しているのかを調べる計画だという。

 このような関連性を明らかにすることは、人間に宿る細菌が健康にもたらす影響を知るうえで役立つ可能性がある。へそに限らず、およそ人間の体に存在する微生物は、その人の免疫機能からニキビ、肌の柔らかさにまで影響を及ぼしていると考えられている。それは医学に大きな恩恵をもたらしうるが、そもそも微生物がそこで何をしているのか、なぜそこにいるのかを理解しなければ役立てることはできない。

 同プロジェクトの研究成果は、11月7日付で「PLOS ONE」誌に発表された。

Images courtesy of Belly Button Diversity

文=Shannon Fischer

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