計算問題を解くカンボジアの少女。このように実際に計算しているときは、計算しなくてはならないと考えるときほどは苦痛が大きくないらしいことも分かった。

Photograph by Justin Guariglia, National Geographic
 数学や計算が苦手な人は、簡単な計算式の答えを考えるだけで、文字通りの苦痛を伴うらしい。最新の研究によると、数字アレルギーの人は、計算問題を出されると予期しただけでも、脳の中枢部が反応していることが分かった。 シカゴ大学の研究チームは、28人の成人を対象に脳活動を計測した。事前の調査によって、うち14人は計算に対する不安が大きく、残りの14人はそうではないことが分かっている。被験者1人ずつに、言葉と数字に関する問題(一部はこの記事の末尾に記載)を次々と与え、その間の脳の働きをスキャンした。

 その結果、不安の大きい被験者グループでは、計算問題が出るのを見ただけで、脳の島皮質後部や帯状皮質中部などが反応していることが分かった。これは痛みや身体への脅威を感じる部位で、その反応はまるで被験者が指でも火傷したかのようだった。不安の小さいグループではそのような反応は見られなかった。

 さらに興味深いことに、研究の共著者イアン・ライオンズ(Ian Lyons)氏によると、「不安が起こるのは(出題を)予期している間だけだ。実際に計算問題を解いているときは、苦痛を感じているようではなかった。つまり、計算そのものが痛みを伴うのではなく、それについて考えることが苦痛なのだ」という。

 これまでの研究から、失恋など心理的負担の大きな出来事が、身体の不調の原因になることは知られている。だが今回の研究は、負担を予期するだけでも脳が痛みとして認識するということを示した、おそらく初めてのものとなる。シカゴ大学の心理学者ライオンズ氏とシアン・ベイロック(Sian Beilock)氏による今回の研究は、米国のオンライン科学誌「PLOS ONE」に10月30日付けで発表された。

 計算に不安を感じるのは「まったくの心理的解釈にすぎない。数字は紙に書いてあるだけのもので、実際に人に損傷を加えるはずもない。(それなのに)計算に対する不安の大きい人は、一般に計算でミスをしがちだ。大学進学適性試験(SAT)の成績も、実験のための課題も振るわない。その結果、計算に関係するキャリアパスを避けがちになる」とライオンズ氏は言う。

 これは、わたしたち人類の一部が、進化の過程でそうなったということだろうか?

「そうは考えていない。数学は比較的新しい文化的発明で、わずか数千年の歴史しかない。それゆえこの反応は、その本人の実際の経験から引き起こされていると考えられる。この経験が悪いものだったとしたら、その人は計算というものを脅威として解釈する。この場合、苦痛を伴うものとすら感じているようだ」とライオンズ氏は言う。

 ライオンズ氏は、今回の発見が計算以外の物事にも当てはまるのではないかと考えている。「このことが別の恐怖症に対しても一般化できるとしても、まったく驚かない。たとえば高所恐怖症だとか、ほかの試験に対する不安についても一般化できるのではないか」とライオンズ氏は言う。

 では、計算の嫌いな人の脳が感じる苦痛を和らげることはできるのだろうか。

「はじめの一歩は、不安を克服することだ」とライオンズ氏は言う。といっても、練習あるのみという考え方ではうまくいかない。「計算の課題を山のようにこなすのは得策ではない。計算に対してもっとリラックスして構えられるようにすることが肝心だ」。

◆計算への不安を自己チェック

 あなたの脳は、計算への不安から苦痛を感じるタイプだろうか。以下の小テストを解いてみよう(注:実際の実験では、問題は1度に1問ずつ出題され、1問につき5秒で回答せねばならなかった。被験者は計算用紙を与えられず、すべて暗算を要求された)。

≪問題≫
1. 次の計算式は正しい? 8×9−16=56
2. 次の計算式は正しい? 7×8−19=37
3. 次の計算式は正しい? 5×9−16=27
4. 次の計算式は正しい? 8×5−19=23
5. 次の計算式は正しい? 6×7−17=27
6. 次の計算式は正しい? 9×4−17=19

≪解答≫
1. 正しい
2. 正しい
3. 誤り
4. 誤り
5. 誤り
6. 正しい

Photograph by Justin Guariglia, National Geographic

文=Jeremy Berlin