米動物園のリカオンが男児を襲った理由

2012.11.06
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ボツワナのオカバンゴ・デルタに生息するリカオン(資料写真)。

Photograph by Chris Johns, National Geographic
 悪夢のような出来事だった。アメリカ、ペンシルバニア州のピッツバーグ動物園は5日、記者会見を開き、同州に住む2歳の男児がリカオンの群れに襲われて死亡したと発表。悲劇は4日、男児が11頭のリカオンが飼われている柵の内側に転落した直後に発生した。 特に攻撃的で男児を噛んだまま離さなかった1頭は警察官が射殺、残りは隔離されている。バーバラ・ベイカー(Barbara Baker)園長は、「このような悲惨な事故が起きたことを心苦しく思う」とコメント。動物園は営業を自粛していたが、6日から再開する予定。

 なぜ11頭は男児を襲ったのだろうか? リカオンの行動を理解するため、2人の専門家に取材した。ロンドンの動物学研究所(Institute of Zoology)の上級研究員ロージー・ウッドロフ(Rosie Woodroffe)氏と、アリゾナ州ツーソンにあるリカオン保護団体(African Wild Dog Conservancy)のキム・マクリーリー(Kim McCreery)氏だ。

◆リカオンとはどのような動物ですか。

キム・マクリーリー氏: オオカミのように家族の群れで暮らします。両親と年長の兄弟が小さな子どもの世話をし、ねぐらには子守りもいます。ほかの肉食動物の群れと異なり、小さな子どもが先に餌を食べます。社会構造は人間の家族とよく似ています。

◆なぜピッツバーグ動物園のリカオンは、柵の内側に落ちた男児を襲ったのでしょうか?

ロージー・ウッドロフ氏(メールで回答): 悲しく衝撃的な出来事です。目の当たりにした人たち、特に男の子の御家族にとっては、耐えられないほどの恐怖だったでしょう。私自身も同年代の子どもがいる母親です。その胸中は容易に想像できます。

 しかし、まず伝えたいのは、野生のリカオンは人間に危害を加えないということです。人間を襲った事例を聞いたことがありません。研究地だったケニアでも、ヤギの世話をしたり学校に徒歩で通う子どもが日常的にリカオンと遭遇しますが、現地の人たちは決して怖がりません。

 私自身、何度も歩み寄ったことがありますが、脅威を感じたことは一度もありません。また一方、大胆不敵で好奇心が旺盛という特徴も備えています。

 リカオンの視点に立って今回の出来事を想像してみましょう。「柵の中に何か落ちてきたぞ。とにかく行ってみよう! おっかなくはなさそうだけど動いている。噛んでみようぜ! おっと飼育係が気をそらそうとしている。でも、こっちの方が目新しいし、ずっと面白い」。実際はどうだったかわかりませんが、そう外れていないと思います。

◆野生だったらどうでしょう? 動物園のリカオンとは違う行動をとったと思いますか?

マクリーリー氏: 飼育下にある動物が野生の動物と違う行動をとることはあります。ただし、今回の悲劇に関し、確信を持って言えることは何もありません。動物園とアフリカでは事情が全く異なります。

◆リカオンについてほかにコメントはありますか?

ウッドロフ氏: 結局、リカオンは捕食動物であり、獲物を追う本能が備わっています。野生のリカオンは人間に興味がありますが、距離を詰めると怖がる。しかし、飼育下では、この恐怖心は格段に小さいと思われます。毎日のように近距離で人間を見ているためです。

 ただし、今回の出来事が捕食を目的とした攻撃だったかといえば、非常に疑わしいと考えています。

 もし本当に小さな子どもを殺して食べたかったのであれば、すぐさま大きなダメージを与えたと思います。これだけ大きな群れなのです。野生だったら獲物を数秒でばらばらにし、数分で平らげてしまうでしょう。

Photograph by Chris Johns, National Geographic

文=Christine Dell'Amore

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