コンゴ共和国、ポワント・ノワールに住むニシローランドゴリラ。エサを生で食べる霊長類は、脳の発達に限界がある。

Photograph by Michael Nichols, National Geographic
 最新の研究によると、およそ180万年前に人類の脳のサイズが急激に大きくなったのは、加熱調理の登場が直接影響しているという。 現生人類の祖先と考えられているホモ・エレクトスは、加熱調理を覚えて、60万年の間に脳が2倍に進化した。ゴリラやチンパンジーなど大型類人猿は、体の大きさはヒト属とそれほど変わらないが、未加工の食料しか食べないので、脳の拡大が起きなかった。

 研究チームの一員で、ブラジルにあるリオデジャネイロ連邦大学、生物医科学研究所(Institute of Biomedical Sciences)の神経科学者スザーナ・エルクラーノ・アウゼル(Suzana Herculano-Houzel)氏は、「真に人間を人間たらしめたものは、“火の利用”ではなく“火を使った調理”だ」と話す。

◆未加工食料による限界

 エルクラーノ・アウゼル氏の研究チームは、さまざまな霊長類の体と脳の質量を測定し、カロリー摂取量や食事時間と比較した。その結果、予想通り、カロリーと体重の間に直接的な相関関係が認められた。つまり、大きく成長するためには、たくさん食べなければならない。

 しかし、1日の時間は決まっているから、体の大きさには限界がある。食料を探す時間が必要だし、食事そのものにも時間がかかる。「一番大きな類人猿のゴリラでも体重200キロくらいが上限で、キングコングにはならない」とエルクラーノ・アウゼル氏は話す。

 そして脳は、体の中で最もカロリー消費効率が悪い組織だ。「もともと十分な栄養を採れない類人猿は、脳と体を同時に大きくすることはできない」。

 もちろん、人類にも不可能だ。しかし、進化の道のりの中で「脳」と「体」の分岐に立った時、人類は「脳」の道を選んだ。「大脳化」と呼ばれる進化経路だ。こうして、人類は体の大きさに比べて極端に大きな脳を手に入れることになった。

「そこでカギを握るのが加熱調理だ」とエルクラーノ・アウゼル氏は話す。

 加熱調理で食料から摂取できる栄養分が増え、さらに、やわらかくなるので食事時間も減る。こうして、人類は大きな脳を発達させ、エサをかむことよりもほかのことに時間を利用できるようになった。

 空いた時間で、もっと上手な狩りのやり方、もっと楽しい生き方に思いをめぐらし、さまざまな文化、芸術、原始的な技術を生み出せるようになった。「人間らしさ」の誕生だ。

◆進化か退化か?

 しかし、加熱調理に「人間らしさ」を求める考えに対しては反論があり、現代の病気を防ぐには「原始的」な食べ方の方が良いという人もいる。

 例えば、未加工食事の支持者は、食事の準備をまったく行わない。ゴリラと同じように、生のフルーツや野菜をそのままむしゃむしゃと食べるだけだ。

 カロリー過多で、あまりに食べやすい食事ばかり好むと、健康に害が及ぶことは間違いない。砂糖と加工食品の過剰摂取は、肥満、高血圧、糖尿病、心臓病といった病気につながる。

◆原始人の食事

 中には「現代の食生活から健康問題が発生するのは、人類という種が砂糖や加工食品に適応できていないからだ」と論じる者もいる。

 人類にとっては、狩猟採集民としての歴史の方がはるかに長い。現代人も、洞窟で暮らした原始時代の祖先のような食生活の方が適しているというのだ。

 どちらの食生活の方が適しているのかという点は、科学的にその是非を検討する必要がある。しかし現代の医学では、乳製品と穀物を欠くと体には危険だと考えられている。洞窟で暮らした祖先たちは平気だったのかもしれないが、その寿命は決して長くなかったことが知られている。

◆これからの食事

 大昔の食生活に戻れば、過剰摂取による現代病とは無縁で生活できるだろう。一方、加熱調理が人類の進化をもたらした原動力であることも確かだ。

 では、これからの食事のあり方はどうなるであろうか。人類にはまだ進化する余地が残されているのだろうか。

 エルクラーノ・アウゼル氏は、「人間の脳の大きさは、まだ限界に到達していない」と話す。同氏によると、体の方は過去200~300年の間に大きくなっており、これは、食生活が変化し、栄養分の摂取量が増加したためだという。

「脳はまだまだ大きくなるだろう。美食を取るか、適切な食事を取るか、それが問題だ」。

 今回の研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に10月22日付けで掲載されている。

Photograph by Michael Nichols, National Geographic

文=Nicholas Mott